『The UKIYO-E 2020 ─ 日本三大浮世絵コレクション 』
~感想レポート~

『The UKIYO-E 2020 ─ 日本三大浮世絵コレクション 』概要

先日、東京・上野の東京都美術館で開催されている
『The UKIYO-E 2020 ─ 日本三大浮世絵コレクション 』(前期)に行ってきました。

日本三大浮世絵コレクションとして知られる、
以下の3つのコレクションが史上初めて一堂に会した注目の展示会です。

・太田記念美術館(東京・原宿)
・日本浮世絵博物館(長野・松本)
・平木浮世絵財団

葛飾北斎、歌川広重らの誰もが知っているような有名な作品から、
浮世絵の基礎を築いた作品まで、
浮世絵の世界をじっくり堪能できる展示となっていました。
作品数も多いですので、所用時間は2時間以上でみておくとよいと思います。

今回はこの展示の面白かったポイント、
おすすめ作品などを紹介していきたいと思います!

展示会の概要等についてはこちらの公式サイトをチェックしてください。

https://www.tobikan.jp/exhibition/2020_ukiyoe.html

前期展示:7月23日(木・祝)~8月23日(日)
後期展示:8月25日(火)~9月22日(火・祝)

※本展示は『日時指定入場制』となっています。
 詳細はこちらからご確認ください。

本展示の個人的おすすめポイント!

「浮世絵」の変遷を体感できる

今回の展示は以下の5章から構成されています。

・第一章 初期浮世絵
・第二章 錦絵の誕生
・第三章 美人画・役者絵の展開
・第四章 多様化する表現
・第五章 自然描写と物語の世界

江戸時代に生まれた浮世絵は、技法から画題まで様々な変遷をたどっていきました。

菱川師宣の墨一色の「墨摺絵」に始まり、
丹色を筆で塗る「丹絵」、墨・草・紅を版彩色で配色する「紅摺絵」、
そして訪れる「錦絵」の時代まで、その技法は試行錯誤の歴史でした。

また、浮世絵の中心的な画題だった美人画や役者絵においても、
人物の描き方や主題が様々に変遷してきたことを、
この展示で示されている作品を実際に見ていくなかで実感することができました。

日本三大浮世絵コレクションということだけあって、
各章の作品は状態もよく、有名な作品も数多く展示されています。

一つ一つの作品をじっくり観察していくとともに、
時代ごとの特徴を意識して進んでいくことで、
浮世絵が辿ってきた変遷を体感することができるはずです。

着物の装飾性

今回の展示で印象的だったのは、作品中で描かれる着物の装飾性の高さです。

こちらは本展示の図録から引用した石川豊信の「花下美人」という作品です。

石川豊信『花下美人』 展覧会公式図録 p46より

桜の枝に恋心を歌った短冊を結んでいる女性の姿ですが、
その着物のデザインが非常に美しく表現されています。

図録の説明を一部引用させていただきます。

着物は貼交絵風に大柄で、雪輪、麻の葉、重ね松、桜、千鳥に観世水などの模様が散らされる。帯の模様は石畳模様であるが、これは人気役者の佐野川市松が好んだことから「市松模様」と名を変えた人気の模様である。

展覧会公式図録 p294

貼交絵(はりまぜえ)というのは、一枚の版画にいろいろな形や、
いろいろな種類の絵をいくつも配置した浮世絵を指します。

女性の右腕の袖、黒地に描かれた渦が観世水、羽を広げた鳥が千鳥という模様ですね。

幾つもの模様によって彩られる女性という特徴からは、
クリムトの装飾画が連想されます。

例えば、この作品などがそうでしょうか。

グスタフ・クリムト『エミーリエ・フレーゲの肖像』

実際、クリムトの作品には浮世絵の影響があるといわれていますので、
今回はまさにそのことを実感できる形になりました。

石川豊信の作品はあくまで一例であり、
今回の展示ではこのほかにも鮮やかな意匠が施された着物の数々を楽しむことができます。

ぜひ着物のデザインにも注目していただければと思います。

「青」の美しさ

本展示でもう一つ印象的だったのが「青」、とりわけ「ベロ藍」の持つ美しさでした。

「ベロ藍」というのは、18世紀にドイツで製法が発見され、
清国を経由して19世紀前半に日本へ安価で流入するようになった青色の顔料です。

「ベロ藍」の普及により、それまでの浮世絵にはあまりみられなかった青色の表現が可能となり、空や海といった風景を描く風景画も描かれるようになりました。

今回の展示では、第四章「多様化する表現」くらいから、
渓斎英泉(けいさいえいせん)や歌川国貞らの「ベロ藍」を使った作品が登場します。

そして、「ベロ藍」を使った作品は葛飾北斎『冨嶽三十六景』、
歌川広重『東海道中五拾三次』、あるいは歌川国芳などの作品へと展開していきます。

葛飾北斎『冨嶽三十六景 神奈川県沖浪裏』 展覧会公式図録 p228より

北斎が描いた大波や富士、歌川広重が描いた空、
深みのある鮮烈な青の美しさが非常に印象的です。

初期の浮世絵からその変遷を見てきたことで、
水や空を強い発色で描くことのできる「ベロ藍」の登場・普及によって、
浮世絵の表現の幅がより一層広がったことを感じられるはずです。

歌川国芳が良い!

辻惟雄による『奇想の系譜』の中でも取り上げられていたように、
歌川国芳の浮世絵には独特の構図・豊かな発想力など、
確かな地力と奇想天外さを併せ持ったものが数多くあります。

今回の展示では、国芳の作品のいくつかを楽しむことができました。

水滸伝に登場する豪傑たちを描いた『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』では、
九紋龍史進と陳達の一騎打ちの場面が躍動感をもって描かれていましたし、

金太郎の幼少期を描いた『坂田怪童丸』では、
自分自身よりも大きな鯉を抱える「怪童」の張り詰めた肉体と、
鯉の抵抗を示すように描かれた水しぶきの臨場感が伝わってきます。

歌川国芳『坂田怪童丸』
展覧会公式図録 p275より

『源頼光公舘土蜘作妖怪図』では、おどろおどろしいというよりも、
コミカルで愛嬌に溢れているように見えてしまう妖怪たちの描き込みに圧倒されます。

そして、『讃岐院眷属をして為朝をすくふ図』で描かれる怪魚と波のうねり、
これもまた見ごたえありです。怪魚のうろこ一つ一つに書き込まれた渦巻き模様まで、
しっかり見て楽しむことができました。

浮世絵の始まりからその変遷を見ていき、
最後に国芳の作品を見て、浮世絵はここまで到達したのだと感じさせられるようでした。

感想まとめ

最後に、今回の展示で個人的におすすめしたいポイントをまとめます。

・「浮世絵」の変遷を体感できる
・着物の装飾性を味わうことができる
・「青」の美しさを感じ取れる
・歌川国芳の魅力を実感できる

浮世絵に興味がある方なら、
前提知識の有無に関わらず楽しめる展示だと思います!

開催期間はまだまだ続きますので、ぜひ足を運んでみてください!

おまけ

浮世絵とつげ義春『ゲンセンカン主人』

展示されている作品の中でもひと際インパクトがあったのが、
喜多川歌麿の『歌撰恋の部 物思恋』です。

なぜこの作品に目を奪われたのか、それはつげ義春の『ゲンセンカン主人』という作品に、喜多川歌麿が描いた女性そっくりのキャラクターが登場するからでしょう。

1枚目が喜多川歌麿、2枚目がつげ義春作品に登場する女性です。

喜多川歌麿『歌撰恋の部 物思恋』 
展覧会公式図録 p123より
『ゲンセンカン主人』の1コマ 
つげ義春『ねじ式』p145(小学館文庫)より

微妙な違いはありますが、顔つきや顔の角度、手指の形まで一致しています。

喜多川歌麿の描いた女性の何とも言えない表情から、
つげ義春氏もインスピレーションを得たのでしょうか?

こちらの作品についても、ぜひ展示会でご覧になってみてください。

今回は以上となります、ご覧いただきありがとうございました。
8月下旬からの後期展示にも足を運んで、浮世絵の魅力を味わいたいと思います!