はじめに
さて、2021年はみなさんにとってどのような年だったでしょうか。
このブログはあまりに不定期な更新ペースになってしまいましたが、
映画観賞自体はマイペースに続けてきました。
鑑賞本数はぴったり100本。
本数の多寡はさておいて、2021年に鑑賞した100本の中から、
印象的だった作品について新作・旧作問わず書いていきます。
ボクシングは人生
「有名だけれど観たことのない映画」、誰にでもあると思います。
『ロッキー』シリーズは私にとってまさしくそんな作品でした。
スタローンが筋肉ですべて解決するんでしょ、はいはい。
映画を観る前の勝手な印象はそんなところでした。
しかし、実際に観てみると、第1作『ロッキー』(1976)は全然そんな作品ではありませんでした。
生きていく中で気づけば誇りを失ってしまっていたロッキーが、
自分自身の存在を肯定するためにチャンピオンのアポロに挑む。
観る人を勇気づけてくれる、まさに傑作だったと思います。
そこからスタローン自身の人生とも重なるようなロッキーシリーズを、
『クリード』シリーズも含めて一気見してしまいました。
どんな形でも最後まで戦い抜くこと、
生きるうえで大切なことを教えてくれるシリーズでした。
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町山智浩氏の解説を聞いて、
マーロン・ブランド主演の『波止場』(1954)も鑑賞しましたが、
こちらもまた状況や恐怖に屈せず戦う港湾労働者の姿を描き出した傑作です。
古い作品ですが、一見以上の価値があります。
ボクシング映画には名作が多い印象ですが、
『レイジング・ブル』(1980)もまた名作でした。
名優ロバート・デニーロ演じるボクサー、
ジェイク・ラモッタの栄光と転落を描いた作品です。
ボクサーとしてのリング上での圧倒的なパワーと勝利へ執念が、
1人の人間としての人生を破壊してしまう。
ボクシングというスポーツは、孤独で何も持たない者同士が戦うからこそ、
そこに人間の生きざまが表れてくるものなのでしょうか。
来年はクリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』とか、
ジェイク・ギレンホール主演『サウスポー』とか、
そのあたりのボクシング映画も見てみたいと思います。
エヴァンゲリオンの終わり
さて、今年は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』をもって、
エヴァンゲリオンシリーズが完結した年でもあります。
私のエヴァシリーズとの最初の出会いは新劇場版でした。
そこからTVアニメ版を見て、
旧劇場版を見て、改めて新劇場版を見て、
そうしてこの物語の結末へとたどり着いた感動は言い表しがたいものがあります。
私でさえそうなのですから、
TVアニメ版から追い続けてきた歴年のファンたちの感慨たるや、
いかばかりなものだったでしょうか。
エヴァンゲリオンを巡るすべての因縁を断ち切って、
物語は完璧といってもいい結末を迎えました。
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素晴らしい作品が終わったあとには
どこかぽっかりと喪失感が残るものですが、
エヴァンゲリオンもその例にもれず。
映画を見終えたのち、ロスを埋めるために私は漫画も全巻購入し、
それはそれでロスになって苦しみました。
ともあれ、90年代から続いてきた1つの時代の終わりの節目に立ち会えたことを喜びたいと思います。
やくざ映画は終わらない
今年は序盤に『すばらしき世界』と『ヤクザと家族』という、
日本社会に適合できない人々のあり方を巡る作品が立て続けに公開されました。
どちらも非常に示唆的な作品でしたが、
特に『すばらしき世界』は役所広司の熱演が印象的でしたね。
ソニー損保のCMの役所広司が三上にしか見えなかったのは、
きっと私だけではないはずです。
また、六角さん演じるスーパーの店長と三上の交流には、
思わずぐっときてしまいました。
ぜんぜんやくざ映画ではないですが、『あのこは貴族』とかも比較的近い時期に観たので、
「今年の邦画いけるやん!」となったことを覚えています。
さらに、おなじく役所広司主演の『孤狼の血』シリーズの続編も、
今年強いインパクトを残した作品です。
1作目から主人公は松坂桃李に引き継がれ、
たぶんだめだろうなと(大変失礼ながら)映画館へ行きましたが、
いやいや全然そんなことはない傑作でした。
韓国ノワールのいいところを持ってきたような、
バイオレンスでサスペンスフルな苦味のある作品で、
こういう映画がもっと見たいなと感じさせられました。
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一方で、やっぱり昔のやくざ映画のカオスっぷりにも驚かされます。
『県警対組織暴力』(1975)、
『北陸代理戦争』(1977)、
『実録 私設銀座警察』(1973)、
『暴走パニック大激突』(1976)とか、
細かくは説明しませんが、
いまならコンプライアンス的に許されないであろう描写のオンパレードです。
でも、だからこそ面白いという側面も間違いなくあります。
今村昌平監督『豚と軍艦』(1961)とかも、
昔の日本(具体的には横須賀)の現在からは想像できないようなあり方が見られる刺激的な作品でした。
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これまでのやくざ映画の幅広さを味わうとともに、
『孤狼の血』シリーズのような新しいやくざ映画が生み出されていくことを、
来年以降も楽しみにしたいですね。
名作が名作たるゆえん
名匠・黒澤明監督の作品を、映画好きを自称しておきながらいうほど見ていない。
そんな自覚から、今年は『羅生門』(1950)、『隠し砦の三悪人』(1958)、『影武者』(1980)、『生きる』(1952)、『酔いどれ天使』(1948)、『野良犬』(1949)とみてきました。
それぞれの作品について詳しくは書きません。
『羅生門』や『隠し砦の三悪人』も名作と名高いだけあって、
非常に面白かったです(志村喬や千秋実ら往年の名優のファンになりました)が、
個人的には現代劇の方が好みでした。
というのは、『生きる』とか『酔いどれ天使』『野良犬』では画面から、
戦後の東京の人いきれするような熱気が伝わってきたからでしょう。
黒澤明監督のヒューマニズムにあふれたメッセージにも、
(幾分説教じみている感はあるにしても)非常に感銘を受けました。
中でも、志村喬が小市民として自分の人生と向き合い、
戦う姿を描いた『生きる』は邦画が誇るべき名作ですね。
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黒澤明監督作品はまだまだたくさんありますので、
来年も随時見ていきたいと思います。
マトリックス・復活
伝説的なトリロジーから18年、
新たに『マトリックス レザレクションズ』が今年の12月に上映されました。
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『マトリックス』が公開された当時子供だった身としては、
ノスタルジーもあり、非常に楽しみに映画館へと向かいました。
正直な感想としては、今作は多くの人が期待するマトリックスではなかったように思います。
一世を風靡したスタイリッシュなアクションとか、
人々の想像を超えてくるような世界の提示とか、
そういった「革新的」な要素はやはり期待を下回るものだったのではないでしょうか。
一方で、今いる世界を疑い、自由を求めて戦う革命の精神は今作にも一貫していて、
LGBTの問題も含めて現代社会の在り方に問いを投げかけるメッセージがあったと思います。
既存作品のリブート・リメイクが多くなっている近年の状況のなか、
オリジナルを上回る面白さをたたき出す難しさを感じさせますが、
個人的にはネオとトリニティに幸福が訪れる終わり方でよかったと思います。
でもやっぱり、モーフィアスとエージェント・スミスのキャスト交代は残念だったかな。
(もちろん、新キャストが悪いわけではない)
広い意味でのホラー映画
最後のテーマは定義もあいまいですがホラー映画。
映画館で観た『ラストナイト・イン・ソーホー』、
『マリグナント 凶暴な悪夢』、『ライトハウス』はどれも面白かったです。
まず、エドガー・ライト監督『ラストナイト・イン・ソーホー』。
1960年代の「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれる、
ロンドン文化の黄金期にあこがれるデザイナー志望の学生エロイーズを、
『ジョジョ・ラビット』でユダヤ人少女を演じたトーマシン・マッケンジーが演じています。
彼女は夢の中で1960年代を生きるサンディという女性の人生を体験するのですが、
そのサンディを演じているのがアニャ・テイラー=ジョイ。
女性の抑圧や性的搾取をテーマにしており、
それをエンタメとして消費しているのでは?といった批判もあるようですが、
巧みな音楽使いや主演2人の存在感など、個人的には好きな作品でした。
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『マリグナント 凶暴な悪夢』は、
『ソウ』シリーズなどでおなじみのジェームズ・ワン監督作品。
殺人現場を見て体感できてしまう能力を持つ、
マディソンという女性が主人公の物語です。
ホラーとしての衝撃の展開力をもちながら、
アクションのレベルがホラー映画のくくりでは類を見ない高さの作品でもあり、
ぜひ見てみてほしいと言いたくなる作品でした。
『ライトハウス』はニューイングランドの孤島の灯台守を務める二人の男を、
徐々に侵食していく恐怖が描かれる、ロバート・エガース監督による作品です。
モノクロで描かれる世界の美しさ・端正さであったり、
物語に散りばめられた神話や文学の数々だったり、
心をかき乱すある「音」の使い方だったりと、
やや難解ながら純粋に恐怖を味わえる作品でした。
ロバート・エガース監督の前作『ウィッチ』(アニャ・テイラー=ジョイ主演)も
作品の雰囲気はなり陰鬱ですが好きな作品でしたので、
今後公開予定の次作『The Northman』(原題)も楽しみにしたいと思います。
そのほか、怖かった映画としては、
人種差別のエグさが伝わる『マンディンゴ』(1975)とか、
現代的なアップデートが巧みだった『透明人間』(2019)とか、
「逆ミッドサマー」こと『バクラウ 地図から消された村』(2019)とか、
痛烈な社会批判が印象的な『プラットフォーム』(2019)とか、
そのほかにもいろいろ楽しい作品がありました。
映画はやっぱりスリルが楽しい、
そういう信念のもと、来年もいろいろな作品に手を付けていかねばならないでしょう。
最後に
さて、ここまで2021年に観た映画についてあれこれ書いてきました。
「2021年の映画界は~」などと語れるほど新作を見ていませんので、
止めておきます。
自分が観た映画を振り返り、その感想を雑多に書いていくうちに、
もっと個別で記事にしたいという作品も多々ありました。
今回の記事で名前が挙がっていない作品もいくつもあります。
来年はどれだけの映画に出会うことができるでしょうか?
来年も映画の世界を楽しめるよう祈りつつ、
今後も記事更新を続けていきます!