『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』
~『ジョジョの奇妙な冒険』に影響を与えた作品たち~

この記事の内容

今回の記事では、2013年に集英社新書から出版された、
『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』の内容を紹介していきます。

以下の内容が分かる記事となっています。

・荒木飛呂彦の映画論
・荒木飛呂彦がおすすめする映画
・『ジョジョの奇妙な冒険』への影響               など

最初に、荒木飛呂彦と漫画『ジョジョの奇妙な冒険』について簡単にご紹介します。
まだ読んだことのない人はぜひ読んでみてください。

荒木飛呂彦と『ジョジョの奇妙な冒険』

荒木飛呂彦の来歴

荒木飛呂彦は、1960年生まれ、仙台市出身の漫画家です。

荒木飛呂彦

幼少期から『巨人の星』『あしたのジョー』などのマンガに親しみ、
専門学校在学中の1980年に『週刊少年ジャンプ』でデビューを果たします。

その後、『魔少年ビーティ―』や『バオー来訪者』といった作品を経て、
1987年に『ジョジョの奇妙な冒険』の連載を開始しました。

『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズはその独特の作風によって人気を博していき、
掲載紙を変えながら現在の『ジョジョリオン』に至るまでストーリーが続いています。

ジョジョシリーズの連載を続ける一方で、
GUCCIとのコラボレーションなど幅広く精力的な活動を展開しています。

『ジョジョの奇妙な冒険』とは

『ジョジョの奇妙な冒険』は1987年から現在に至るまで続く、
日本を代表する少年漫画です。

19世紀後半のイギリスを舞台に展開される
主人公ジョナサン・ジョースターと宿敵ディオとの対決に始まるこの物語は、
時代や主人公、設定を変えながら、多くの人々を魅了してきました。

荒木飛呂彦独自の絵柄やセリフ回しをはじめ、
「波紋」や「スタンド(幽波紋)」といった独特の能力設定も、
『ジョジョ』シリーズの大きな特徴です。

現在は、第8部『ジョジョリオン』が『ウルトラジャンプ』にて連載されています。

この作品の魅力は語ればキリがありませんので、
まずはぜひ読んで体験していただければと思います。

このブログでも記事にしていきたいですね。

それでは、そんな『ジョジョ』シリーズをさらに楽しむのに役に立つ、
作者荒木飛呂彦のおすすめする映画を見ていきましょう。

荒木飛呂彦の映画論

よいサスペンス、5つの条件

エンターテイメントの基本は「サスペンス」にある、というのが僕の持論です。

『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』 p10

荒木飛呂彦は、漫画家を目指すにあたり、
「面白い」と何か?を考えるようになりました。

自分が好んでいた映画を研究するうちに、
観る者をドキドキさせる「サスペンス」の重要性に気付いたのです。

そして、よいサスペンス映画は5つの条件を満たしていることを発見しました。
彼が考える5つの条件とは何なのでしょうか?

①「謎」があること

1つ目は、「謎」があることです。

犯人は誰か?なぜそんなことをしたのか?
観る者を惹きつける「謎」があるところにサスペンスが生まれ、
サスペンスがあるところには必ず「謎」があります。

「日常からちょっとずれた何か」に、謎は宿っているのです。

『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』 p14

②「主人公に感情移入できる」こと

主人公に共感できなければ、ストーリーがどうなろうと、
興味を持つことはできません。

荒唐無稽なキャラクターでも、観客を納得させるリアリティや雰囲気があれば、
共感の対象として見ることができるのです。

③「設定描写」がうまいこと

よい設定は観客を没入させ、ストーリーに集中させるために必要なものです。

法律の世界や医師の世界、あるいはレストランや学校など、
みんなが知っているものの深くは知らない世界は、
興味を引く良い設定だといえると荒木先生は述べています。

④「ファンタジー性」があること

ファンタジーとは妖精や怪物が出てくるような世界ではなく、
誰もが「憧れ」を抱く、日常でありながら非日常の世界。

『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』 p15

荒木先生の定義に基づけば、
カーチェイスやスーパーヒーローなどもファンタジーと言えるでしょう。

実際に現実で体験するのが難しいものの、
誰もが一度は体験してみたいと思う世界を味わう爽快感こそ、
サスペンスの醍醐味です。

⑤「泣ける」かどうか

荒木先生が挙げる最も重要な要素が、「泣ける」かどうかです。

「泣ける」ということは究極に感情移入できるということであり、
ここまで挙げた①~④の条件にも関わってくることですね。

「男泣きサスペンス」

荒木先生は、「男泣きサスペンス」というジャンルに言及しています。

登場人物に感情移入でき、同時にストーリーにハラハラさせられる、
完成度の高いサスペンスです。

本書で述べられる「男泣きサスペンス」には、以下の要素が欠かせません。

 
・プロフェッショナリズム
・男の悲哀
・自分の美学を貫く
 
 

プロフェッショナリズム

1つ目はプロフェッショナリズムです。

荒木先生は「男泣きサスペンス」の傑作として、
マイケル・マン監督の『ヒート』を挙げています。

『ヒート』の登場人物、
とくに主役のロバート・デ・ニーロとアル・パチーノのキャラクターは、
まさにこの3つの条件を体現したものとなっています。

デ・ニーロは強盗をはじめとする犯罪のプロ、
対するアル・パチーノは彼らを捕まえようとする優秀な刑事。

各シーンで彼らが見せる無駄のない動きに、プロフェッショナルとしての姿勢を感じさせられ、グッとくるのだと荒木先生は語っています。

男の悲哀

『ヒート』に出てくるデ・ニーロやその仲間たちは、
普通の社会の中には居場所を見いだせず、
「犯罪」をすることでしか生きることができません。

生きるためには、どんなことでもやるしかない。
そんな彼らの悲哀が伝わってくることも、「男泣き」のための条件となっています。

『ヒート』の冒頭の強盗シーンで、
新しく計画に参加した男がプロらしからぬ失敗をし、
そこからデ・ニーロたちはアル・パチーノらに尻尾を掴まれていきます。

無能な仲間に足を引っ張られ、
それでも文句を言わず計画を進めなくてはいけない状況、
さらにそれによって新たに危機が巻き起こってしまう。

苦しい状況でもやるしかない、その悲哀が観客の胸を打つのです。

自分の美学を貫く

デ・ニーロはある女性と恋に落ち、
犯罪の世界から足を洗うことを決意します。

彼が最後の仕事に終え、高飛びのため空港近くまで彼女と共に向かいます。

空港にさえたどり着けば、新天地で彼女との新しい生活を始められる。

しかし、途中で彼を裏切った男が空港のホテルにいることを知ったデ・ニーロは、
そこに警察の手が伸びていることを承知で男を始末しに行きます。

仲間を死に追いやったその男を始末しなければ計画は成功とはいえないのだと、
損得勘定を越えて彼は全ての決着をつけに行くのです。

損得で行動するのではなく、自分の人生を肯定するために戦う。

『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』 p39

スピルバーグ監督とデ・パルマ監督

荒木先生がその作品から多くを勉強したという監督が、

スティーブン・スピルバーグとブライアン・デ・パルマです。

スピルバーグの『ジョーズ』『ジュラシック・パーク』『激突!』といった作品を取り上げて、

・見えそうで見えない
・加速していく展開
・ひとつのシーン中に複数のアイディアを詰め込む

といった特徴について説明しています。

それでは、荒木先生がデ・パルマ監督から学んだのはどんな手法だったのでしょうか。

・観客を置き去りにする演出
・華麗なる長回し
・細かい伏線

『ジョジョの奇妙な冒険』には映画の巨匠たちから学んだ技法が生かされていると、
本書の中でも語られています。

『ジョジョ』を読まれた方なら、思い当たるシーンもあるのではないでしょうか。

名作には都市伝説が必要だ

『シティ・オブ・ゴッド』に登場するような弱肉強食の貧困街、
感情や常識の欠落したキャラクターが主人公の『ファーゴ』、
郊外で開催される乱交パーティーが登場する『アイズ・ワイド・シャット』…

名作には「本当にそんな場所が、人が存在するのだろうか?」
という恐ろしさを感じさせる要素が含まれているものです。

恐ろしさと同時にどこかリアリティを感じさせる、
訳の分からなさ、得体の知れない感覚。
それは都市伝説が持つ面白さと共通していると言えるでしょう。

荒木先生は、同様の面白さを持つ作品として、
『グリーンマイル』『リトル・チルドレン』『ゴーストライター』といった作品も紹介しています。

『ジョジョの奇妙な冒険』への影響

ここまで荒木先生の映画論を見てきました。

それでは、彼の映画論が反映されていると感じられるシーンを、
『ジョジョの奇妙な冒険』からピックアップしてみましょう。

スタンドの「ファンタジー性」とDIO(第3部)

『ジョジョの奇妙な冒険』といえば、
数多く登場する「スタンド」と呼ばれる特殊な能力です。

この能力はシリーズ第3部『スターダストクルセイダース』から登場します。

主人公空条承太郎のスタンドは精密な動きと豪快なパワーを持つ「スタープラチナ」。

そのほかにも火を操るスタンドや賭け勝負で負けた相手の魂を奪うスタンドなど、
多彩なスタンドが登場していきます。

現実にはあり得ないけれど、どこかにそんな能力を持った人がいるかもしれない。
自分にもしスタンド能力があったら…?

誰もが一度は想像し憧れる、「ファンタジー性」がある設定です。

また、空条承太郎は高祖父ジョナサン・ジョースターの宿敵であったDIOの影響でスタンド能力を発現します。

そして、DIOの影響で母の命に危機が迫ったことから、
先祖からの決着をつけにエジプトを目指すのです。

DIOは『ジョジョ』シリーズの第1部に登場しジョナサンに敗れたはずでした。
作品に親しんできたファンは、蘇ったDIOがどんな姿になっているのか、
非常に興味をそそられます。

しかし、その姿は都度登場するものの、なかなかはっきりとは描かれません。

現在のDIOはどうなっているのか?というのが「見えそうで見えない」。

ここに荒木先生がスピルバーグ映画の手法として称賛した要素を見ることができます。

ボスを裏切ったブチャラティ(第5部)

イタリアを舞台に展開される第5部で登場するのが、
ギャング組織の一員であるブチャラティです。

主人公のジョルノ・ジョバーナはブチャラティの部下となり、
組織のボスの娘を護衛する任務にあたります。

そして、指定された場所にボスの娘を届けたとき、ボスは自身の娘を殺そうとします。

ブチャラティはそれを見過ごすことができず、ボスを裏切って娘を救い出すのです。

後悔はない…
こんな世界とはいえオレは自分の『信じられる道』を歩いていたい!

『ジョジョの奇妙な冒険 35』集英社文庫 P131

ブチャラティはギャングの一員はありますが、
一方で組織が捌いている麻薬を少年が打っていることにショックを受けるなど、
自分なりの「正義」を貫こうとするキャラクターです。

ボスを裏切れば、自分たちは確実に粛清される。
そのことが分かっていても、自身の正義・美学を貫く。

これは本書で荒木先生が語る「男泣きサスペンス」に欠かせない要素の一つです。

その後ブチャラティたちはボスが差し向ける暗殺チームとの死闘に臨みますが、
暗殺チームのメンバーはこれまた「男泣きサスペンス」に欠かせない、
「プロフェッショナリズム」を感じさせる描き方がされています。

ジョジョ第5部『黄金の風』は、
荒木先生が語る「男泣きサスペンス」の要素が詰まったシリーズと言えるでしょう。

都市伝説に満ちた「杜王町」(第4部)

ジョジョ第4部『ダイヤモンドは砕けない』の舞台となっているのが、
「杜王町」という町です。

主人公の高校生・空条仗助が暮らすこの町には、
荒木先生が語る都市伝説的な面白さがちりばめられています。

この章のボスである吉良吉影には、
町に静かに溶け込みながら殺人を繰り返すシリアルキラーという、
もしかしたら実在するかもしれないと感じさせる面白さがあります。

そのほかにも、存在しない小道に暮らす少女、
鉄塔の中だけで暮らす男、体の不調が治るレストランなどなど、
都市伝説に出てきそうなキャラクター・設定が多く登場します。

ジョジョ第4部は「都市伝説」のような、
「理解できない、得体のしれない感覚」が一つの魅力となっているシリーズです。

荒木飛呂彦が選ぶサスペンス映画ベスト20

作品名製作年監督
『ヒート』 1995マイケル・マン
『大脱走』 1963ジョン・スタージェス
『96時間』2008ピエール・モレル
『ミスティック・リバー』2003クリント・イーストウッド
『許されざる者』1992クリント・イーストウッド
『サイコ』1960アルフレッド・ヒッチコック
『天国から来たチャンピオン』1978ウォーレン・ベイティ
『シュレック』2001アンドリュー・アダムソン
『ファーゴ』1996ジョエル・コーエン
10『ダーティハリー』1971ドン・シーゲル
11『ボーン・アイデンティティー』2002ダグ・リーマン
12『シティ・オブ・ゴッド』2002フェルナンド・メイレレス
13『激突!』1971スティーブン・スピルバーグ
14『アイズ・ワイド・シャット』1999スタンリー・キューブリック
15『バタフライ・エフェクト』2004エリック・ブロス
16『マスター・アンド・コマンダー』2003ピーター・ウィアー
17『運命の女』2002エイドリアン・ライン
18『フロスト×ニクソン』2008ロン・ハワード
19『バウンド』1996ウォシャウスキー姉弟
20『刑事ジョン・ブック 目撃者』1985ピーター・ウィアー
次点『レザボア・ドッグス』1992クエンティン・タランティーノ

感想

荒木先生が自らの映画論について語った本書では、
多くの映画の面白さを生んでいる要素が語られています。

映画の面白さを理解するために参考になる1冊ですし、
面白い映画を探す手助けにもなる1冊です。

とくに、今回紹介したベスト20にある作品は、
ほぼ外れなく楽しめるラインナップかと思いますので、
ぜひ映画選びの参考にしていただければと思います。

荒木先生は『ヒート』を「男泣きサスペンス」のベストに挙げていますが、
同じく「男泣きサスペンス」としての魅力ある作品として、
『フォードvsフェラーリ』は素晴らしかったです。

クリスチャン・ベイル演じる凄腕のドライバーと、
マット・デイモンが演じるカーデザイナーが、
それぞれのプロフェッショナリズムを戦わせながら、
絶対王者フェラーリに立ち向かう。

荒木先生の映画論に共感できる人であれば、
ぜひおすすめしたい1作ですね。

ちなみに、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの中でも、
私が一番好きなのが第5部『黄金の風』です。

本書を読み、荒木先生が考える面白さとは何か?を知ることで、
自分が第5部、ひいてはジョジョシリーズが好きな理由を理解することができました。

ジョジョ第5部はまさにサスペンスの王道、
荒木先生が言うところの「男泣きサスペンス」の要素を全て満たしているといっても過言ではないシリーズですね。

中でも、ブチャラティは自身の美学を貫くかっこよさや、
逆境でも戦っていく男の悲哀を感じさせるキャラクターです。

荒木先生は本書の前にホラー映画について語った
『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』という本を書いています。

こちらについても後日紹介したいですね。
また、本書で取り上げられている映画についても記事を作っていきます。

おすすめ関連記事

この本の中で、荒木飛呂彦はブライアン・デ・パルマ監督を絶賛していました。

デ・パルマ監督作品『スカーフェイス』について書いた記事も合わせてご覧いただけますと幸いです。