日本を舞台にしたアクション・コメディ
伊坂幸太郎の小説『マリア・ビートル』を原作に、
ブラッド・ピットや真田広之らスターが共演した映画『ブレット・トレイン』。
主演のブラッド・ピット、
アーロン・テイラー=ジョンソンらが来日し、
新幹線「のぞみ」全車両を貸し切りでイベントを行うなど、
公開前のプロモーションでも話題を呼んでいます。
今回は池袋のグランドシネマサンシャインで鑑賞してきましたので、
ネタバレありで感想を書いていきます。
あらすじ・キャスト
世界⼀運の悪い殺し屋レディバグが請けたミッション、
それは東京発の超⾼速列⾞でブリーフケースを盗み、次の駅で降りること。簡単な仕事のはずが、次から次へと乗ってくる⾝に覚えのない殺し屋たちに命を狙われ、
降りたくても、降りられない。最悪な状況の中、列⾞はレディバグと殺し屋たち、10⼈を乗せたまま終着点・京都に向かうが…
乗り合わせたはずの10⼈は、偶然ではなく、仕組まれた罠だった。やがて明らかになっていく、殺し屋たちの過去と因縁。
そして終着点で待ち受ける世界最⼤の犯罪組織のボス=ホワイト・デスと対峙したとき、
Filmarksより
思いもよらぬ衝撃の展開が待ち受ける!
殺し屋「レディバグ」を演じるのは、
俳優としても映画プロデューサーとしても精力的な活躍を続けるブラッド・ピット。
同じ新幹線に乗り合わせる殺し屋コンビを、
『キック・アス』や『TENET』で知られる
アーロン・テイラー=ジョンソン、
『ジョーカー』や『エターナルズ』などに出演しているブライアン・タイリー・ヘンリーが演じています。
さらに、物語のカギを握る「長老(エルダー)」に、
『アベンジャーズ』や『モータル・コンバット』など、
ハリウッドで活躍を続ける真田広之をキャスティング。
そのほかには、車掌役でマシ・オカも出演。
ライアン・レイノルズやチャニング・テイタムなど、
豪華な俳優陣がカメオ出演しているのも見どころです。
また、監督を務めるのはデヴィッド・リーチ。
彼はもともとスタントマンとして活動していて、
『ファイトクラブ』(1999)でブラッド・ピットのスタントを務めたことが、
リーチとブラッド・ピットとの最初の出会いでした。
その後も2人は『スパイ・ゲーム』(2001) や
『オーシャンズ11』(2001)などの作品で、
俳優とスタントマンとしての共演を果たしていきました。
その後、リーチは監督としてデビューし、
『デッド・プール2』(2018)では
ブラッド・ピットがカメオ出演しています。
そして2022年、2人は監督と俳優という関係で、
『ブレット・トレイン』を作り上げていくことになりました。
また、本作の上映時間は126分となっています。
【見どころ①】魅力的な殺し屋たち
ブラピ演じる「レディバグ」
ブラピ、最高でした。
黒縁メガネに野暮ったいバケットハットで、
スターオーラを消した姿にもかかわらず、
あふれ出てしまう只者じゃない感。
くたびれている感じなのにかっこいいし、
終始飄飄としていてコミカルでもある。
ブラピ自身も楽しみながらこのキャラクターを演じていることが伝わってきます。
リーチ監督自身も「今作の脚本を読んだとき、レディバグの候補はブラピ以外頭になかった」といったことをインタビューのなかで語っていました。
ブラッド・ピット主演映画『ブレット・トレイン』が公開中だ。 本作は、伊坂幸太郎のベストセラー小説『マリアビートル』を、『…
いち観客としては、
この2人が出会えたこれまですべてに
ドモ、アリガトウ。
また、レディバグ自身は自分のことを「運が悪い」と語っていますが、
そんな悪運のなかを間一髪生き抜く
しぶとさ(ある意味幸運)こそ彼の真骨頂。
そんな彼に危害を加えようとする者がどうなるかといえば、完全に運悪く死んでしまうわけです。
メキシコマフィアのウルフの死に方がいかにも象徴的ですね。
(跳ね返ったナイフが偶然胸に突き刺さり、そのまま倒れて首が折れる)
敵からすると、レディバグを見たらすぐその場を離れろとでも言いたくなるような、
コナンとか金田一的な超厄介な相手といえます。
今作はまさに、そんなレディバグの
「Stayin’ Alive」な物語でした。
レモンとタンジェリンのブロマンス
この映画に欠かすことができないのが、
レディバグと同じ新幹線に乗り込む殺し屋コンビ、
レモンとタンジェリンです。
彼らは最強のヤクザ「ホワイト・デス」の指令で、
敵ヤクザの人質となったホワイト・デスの息子を救出し、
彼の身柄と身代金が入ったブリーフケースを京都まで届けるためにこの新幹線に乗っていました。
レモンは黒人、タンジェントは白人なのですが、
幼いころからともに育ってきたらしき描写があり、
「双子」の殺し屋としてその名をはせています。
『機関車トーマス』から人生のすべてを学んだと語るレモンと、
見た目は整っているが中身は粗暴なタンジェリン、
それぞれがかなりクセのあるキャラクター。
ちなみにトーマスからすべてを学んだというのは、
伊坂幸太郎の原作の設定のままだそうです。
彼らがホワイト・デスの息子を救出する際に何人殺したか?を回想するシーンは、
人質を護衛するヤクザたちを楽し気に殺しまわるテンポの良さが笑えます。
個人的には、いかにも大柄でパワー系っぽいレモンが新幹線に潜む悪役を見抜くなど、
トーマス仕込みの洞察力を披露していたのがギャップがあってよかったです。
彼らのブロマンスというところでいくと、
まずトイレに横たわるレモンをみたタンジェリンのシーン。
レモンの死体(本当は睡眠薬で寝ているだけ)を見て、タンジェリンは言葉を失ってしまいます。
普段お互いのことを罵りあっているのに、
この場面では言葉を失ってしまうギャップから、
レモンという存在が彼にとってどれだけ大事か、
そしてそれを失った悲しみが伝わってきますし、
アーロン・テイラー=ジョンソンの演技もベストでした。
逆に、レディバグとの闘いのなかで命を落としたタンジェリンに、レモンが静かに寄り添うシーン。
彼は大事にしている機関車トーマスのキャラクターシールのなかから、
主人公であるトーマスのシールを剥がしてタンジェリンの手に握らせます。
彼にとって機関車トーマスは人生のバイブルであり、
その主人公トーマスはいわば神。最大級の追悼です。
作中で描かれる2人のそうした関係性は、
コミカルな本作にエモーショナルな深みを与えるものでした。
レモンとタンジェリンの過去スピンオフが作れそう。
ていうか作ってほしいです。見に行きます。
金カムイの土方歳三的な真田広之
「ホワイト・デス」への復讐を誓う
長老(エルダー)役を演じたのが真田広之。
いうまでもなくめちゃくちゃかっこよかったです。
今作のデヴィッド・リーチ監督は
『スピード・レーサー』(2008年)
『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年)
などで一緒に仕事をした経験から、真田広之へオファーを出したそうです。
真田広之は脚本の面白さとリーチ監督への信頼でオファーを快諾し、
今作への出演を決めたとインタビューで語っています。
ブラッド・ピットと真田広之は初共演とのことで、
2人の会話シーンにも注目です。
作中での真田広之は京都駅に集結している世界中の殺し屋とホワイト・デスを相手に、
日本刀で圧倒的な強さを見せつけます。
日本刀・老人・列車・・・
これ、完全にゴールデンカムイの土方歳三です。
それはもうかっこよくないはずがないですね。
デヴィッド・リーチ監督も真田広之を
最大限かっこよく見せる描写をしていたように感じました。
「こういうのでいいんだよこういうので」と、
心の中の井之頭五郎が語り掛けてきましたね。
【見どころ②】こまけぇこたぁいいんだよ!な面白さ
トンチキ日本描写が癖になる
日本が舞台となっている今作ですが、
日本描写は良くも悪くもハリウッド的です。
ツッコみどころを言い出したらキリがない、
イマジナリートーキョー。
こまけぇこたぁいいんだよ!な気持ちで楽しむのがおすすめです。
そもそも新幹線が何時間走ってるんだという話ですよね。
東京を出発して、京都につく頃には朝になっている、
まさかの夜行新幹線でした。
途中の駅ではコッテコテのジャパニーズヤクザがたむろしていて、
誰も気に留めない日本の治安が心配。
その割になぜか妙にリアルに描かれている米原駅。
滋賀県民は大喜びです。
車内にはソメイティモモもん。
他にも無限にトンチキな日本描写がありますが、
日本文化への理解が不足しているからではなく、
ハリウッドのステレオタイプな日本を逆手にとって、
ツッコんでほしい!という感じが伝わってきました。
それに気づいて笑えるのは日本人ならではなので、
監督が仕掛けたツッコみどころを見つけて笑うのが楽しい映画でした。
見ごたえあるアクション
今作は基本コミカルな作品なのですが、
アクションシーンのクオリティは本物です。
スタントコーディネーターをつとめた
グレッグ・レメンターいわく、
ブラピは「スタントシーンの95パーセントを自ら手がけていた」そうです。
かなり激しいアクションシーンもありますが、
そのほとんどをブラピ自身が演じているというのがすごい。
タンジェリンとレディバグの戦闘なんて、
完全にジョジョ第5部のブチャラティvsペッシ・プロシュート戦でした。
タンジェリンでいうと、レディバグに蹴られて駅に置き去りにされたタンジェリンが、
走って新幹線の最後尾に飛び乗って、
素手でガラスを割って新幹線に戻ってくるシーン。
人間離れしすぎていてめちゃくちゃ笑えました。
間違いなくこの映画で最高のシーンの1つです。
全体を通じてリアリティとケレン味のバランスがとてもちょうどよくて、
スタントマン出身のリーチ監督の強いこだわりを感じる作品でした。
出演している日本人は?
日本を舞台にした作品ということで、
出演している日系俳優をまとめてみました。
役名 | 出演者 |
長老(エルダー) | 真田広之 |
木村雄一 | アンドリュー・小路 |
車内販売の女性 | 福原かれん |
車掌 | マシ・オカ |
アンドリュー・小路は日系イギリス人の俳優で、
国籍はイギリス人です。
スタントマンとして
『ワイルドスピード EURO MISSION』に出演したり、
ブルース・リー原案のテレビドラマシリーズ『ウォリアー』(2019~)で
主人公ア・サーム役を務めたりと、
近年活躍の幅を広げています。
福原かれんは日系アメリカ人で、
『スーサイド・スクワッド』のカタナ役や、
『ザ・ボーイズ』のキミコ・ミヤシロ役
で知られる俳優です。
そのほかに、劇中歌の「Stayin’ Alive」をアヴちゃん、
「Kill Me Pretty」を奥田民生が歌っています。
原作となった小説:伊坂幸太郎『マリアビートル』
今作の原作となっている、
伊坂幸太郎の『マリア・ビートル』。
映画と原作でおおまかなプロットは同じですが、
異なっている点も多くあります。
・新幹線の行先が原作では盛岡だが、映画では京都
・タンジェリンは原作では文学好き
・プリンスは原作では男子中学生
などなど。
伊坂幸太郎は『マリアビートル』について、
映画や漫画よりも刺激的な小説を書きたかったと語っており、
「なぜ人を殺してはいけないのか?」という問いかけがテーマの小説だと述べています。
※以下リンクより
ブラッド・ピット主演最新作『ブレット・トレイン』が、2022年9月1日(木)より全国の映画館で公開を迎える。本作の原作と…
皆さんもぜひ『マリアビートル』を手に取って、映画との違いを楽しんでみてください。
価格:814円 |
【電子特典付き】殺し屋シリーズ【3冊合本版】『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』【電子書籍】[ 伊坂 幸太郎 ] 価格:1,980円 |
最後に
ブラッド・ピットのコミカルな演技、
熱いブロマンス、日本刀で暴れまわる真田広之、
そしてトンチキな日本描写の数々。
そして、監督のこだわりが詰まった
ハイクオリティなアクションシーン。
日本人だからこそ思わずツッコんでしまう馬鹿馬鹿しさもあって、
エンターテインメントとしての魅力にあふれたハリウッド作品でした。
この作品を作ってくれたデヴィッド・リーチ監督、
主演のブラッド・ピットはじめ、
この映画にかかわってくれた人たちすべてに、
ドモ、アリガトウ。
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