映画『ブルータル・ジャスティス』が持つ、普通ではない3つの特徴

『ブルータル・ジャスティス』とは

この世には、『ブルータル・ジャスティス』という映画があります。

2018年(日本では2020年公開)のアクション・クライム・スリラーである今作は、

「暴力の伝道師」ことS・クレイグ・ザラーがメガホンを取った作品です。

S・クレイグ・ザラー監督

ストーリーを簡単に紹介しますと、

時代に置いていかれたベテラン刑事ブレットメル・ギブソン)と、
その相棒である刑事トニーヴィンス・ヴォーン)の2人が、
自らの行き詰った人生を打破する大金を手に入れるため、
ある犯罪者の監視を始める…

という物語です。

さて、この作品は一見するとどこにでもありがちな、
ありふれたアクション映画のように思えます。

しかし、今作はそんな予想を覆す、
「普通」という言葉の全く似合わない作品でした。

どこが「普通」ではないのか?

今回はその特徴を見ていきます。



特徴その①~スローテンポな語り口~

醸し出される緊張感とリアリティ

この映画最大の特徴は、実にじっくりとした語り口です。

上映時間は159分

2時間半たっぷりの尺です。

一方、世の中の流れは一層忙しなくなっていて、
ファスト映画やタイムパフォーマンスといった言葉が使われるようになっています。

『華氏451度』という小説には、
「要約、概要、短縮、抄録、省略だ。」という敵役のセリフがありますが、

より単純でスピーディーなものを求める傾向はますます強くなっているようです。

この映画はそんな世の中に逆行するように、
1つ1つの場面を非常にゆっくり映し出しています。

その特徴は冒頭の麻薬の売人をブレットとトニーが逮捕するシーンから表れています。

ブレットとトニーが売人のいる部屋へ突入していくのではなく、
仲間の刑事が水道工事の振りをして部屋を訪れ、
売人が窓から抜け出そうとするのを待ち構えるというシーンです。

銃声が鳴り響くこともなく、非常に静かに、
それでいて目が離せない緊張感をもって展開されるこのシークエンスから、
この映画がありがちなアクション作品とは異なることが分かるでしょう。

『ブルータル・ジャスティス』
COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

その後のブレットとトニーによる張り込みのシーンも、
張り込みという地道な手法を体感するかのように、
ゆっくりと時間が流れていきます。

いつターゲットが現れるかは分からず、
ひたすらに車内で時間を潰す2人。

トニーがむしゃりむしゃりとサンドイッチを食べ続けるシーンも、
映画を観た多くの人の印象に残ったシーンでしょう。

こうして、現実の時間の流れ方に近い描き方をすることによって、
作品全体にリアリティと緊張感が醸し出されます。

あのなんとも言えない絶妙な間と空気感、
ぜひ映画をみて味わって見てほしいと思います。

時間をかけるからこそ

また、登場人物の置かれている状況の伝え方も、
2時間半という時間をかけているからこそのものがあります。

例えば、ブレットの娘が通学路で黒人の少年グループにソーダを掛けられるシーン

ブレットが現場の刑事として長年安月給で働いているがゆえに、
彼の家族が治安の悪い地域に住まざるを得ないことが伝わる場面です。

ブレットの家族が置かれている状況を伝えるだけであれば、
娘が泣きながら家に帰ってくるだけでもよさそうです。

しかし、黒人の少年がブレットの娘を突け狙い、
実際に犯行に及ぶまでの一連の場面を描くことで、
この地域の治安の悪さ、危険な雰囲気を肌感覚で理解できるようになっています。

ブレットが何とかこの状況を抜け出したいと感じる理由を、
観客はリアルに実感できるでしょう。

他にも、トニーの恋人との何とも言えない関係や、
出所したての黒人青年であるヘンリーの貧困などが、
十分に伝わってくるよう描かれています。

2時間半かけているからこその、この充実感。

特に、産休明けで出勤する銀行員の女性ケリーについては、
この映画を観た人の誰もが驚かされたのではないでしょうか。

『ブルータル・ジャスティス』
COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

いわゆるモブキャラであるこの女性のシーンがかなり唐突に始まるのですが、
あるワンシーンのためだけに登場する人物にここまで尺を割く。

彼女の存在は、描き込みの深さという意味で、
この映画の象徴的なシーンの1つと言えます。

『ブルータル・ジャスティス』は、
映画を観るということが、贅沢な時間の使い方であることを感じられる作品です。

この映画の上映にあたって、
配給元から130分への短縮を要請されたものの、
ザラー監督は上映時間のカットを断固拒否したそうですから、
この描き方がこの作品の重要な要素であることが分かります。

特徴その② ~非情すぎる暴力~

この映画を特徴づけるもう1つの要素、
それが「暴力の伝道師」ことザラー監督によって描かれる、
非情すぎる暴力です。

今作の敵役はリーダーのボーゲルマンと、
仲間のブラック・グローブグレー・グローブの3人なのですが、

ブラック・グローブとグレー・グローブは終始覆面のままで、
素顔を明かすことがありません。

見た目だけでもかなり不気味なうえ、
彼らの言動は人間味を全く感じとることができないように描かれています。

特に取り上げたいのが、
ブラック・グローブが小さなコンビニを襲撃するシーン

https://youtu.be/TaLH313lmn0

刑事のブレットとトニーが逮捕されたというニュースを、
店員が気怠そうに眺めているところに、
重武装の覆面男が静かに店に入ってきて、「5秒以内に金を出せ」と銃を突きつけます。

店員は焦ってレジをうまく操作できず、必死の思いでこじ開けて何とか金を出す。

そこに1人の客が入ってくる。

ブラック・グローブは何の躊躇いもなく客の脚を撃ち抜き、
その間に銃を取り出そうとしていた店員も即座に撃ち殺します。

ここまではブラック・グローブの全く躊躇のない殺し方に恐怖するシーンです。

しかし、もっと怖いのがそのあとで、
ブラック・グローブは持っている銃で店内を散発的に破壊していくのですが、
証拠を隠滅するというわけでもなく、
ただただ思い付きのようにテレビや商品棚に向かって乱射します。

観客には全く彼がそんな行動に及ぶのか、全く理解することができません。

目の前で理解不能な暴力が発揮されるシーンになっていますが、
この非人間的な破壊行動が描かれることで、
得体の知れない恐怖が伝わってくるようです。

何とも言えない乾いた余韻を持つ、印象的なシーンでした。

その後も、彼らによる銀行強盗のシーンなど、
様々な場面で乾ききった非情な暴力が描き出されていきます。

この非人間的な暴力の描き方は、
コーエン兄弟による『ノーカントリー』を想起させるものがありました。

いつ、誰が死んでもおかしくないというこの緊張感を、
ぜひ味わってほしいと思います。

特徴その③ 救いはあるのか? ※ネタバレあり

さて、ここからは今作の結末も含めた話になりますので、
未見の方は読み飛ばしてください。

さて、映画終盤、ブレットとトニーは人質を取ったボーゲルマンたちと対峙します。

そこからいろいろなことが起こるのですが、
最終的に生き延びたのは黒人青年のヘンリーで、
彼は全ての金塊を手に入れて裕福な暮らしを手に入れました。

そんなヘンリーは映画のラストで、ブレットの妻に金塊を送っています

彼は家族を救おうとして果たすことができなかったブレットの思いを汲んだのか、
あるいは、自分だけが生き残って裕福になったことへの罪悪感からか。

ある意味偶然によって成功をつかんだヘンリーは幸運でしたが、
ブレットとトニーを中心に物語を見てきた観客にとっては、
何とも「アンチョビ!」な結末でもあります。

ヘンリー、ブレットとトニー、ボーゲルマン、ケリーなど、
一連の群像劇から我々はどのようなことを読み取ることができるでしょうか。

あと少し人間を信じていれば、ブレットは自分自身や家族を救えたのか?

ケリーのように、どんな思いがあっても、不条理な暴力の前には無意味なのか?

あるいは、ヘンリーが金塊を送ったように、こんな世界にも救いはあるのか?

『ブルータル・ジャスティス』は、
様々な問いを投げかけるような味わい深いストーリーを持った作品です。

『ブルータル・ジャスティス』
COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

最後に

さて、ここまで『ブルータル・ジャスティス』という映画について簡単に語ってきました。

単純明快なアクション映画ではなく、じっくりと丁寧に描き出される物語。

このテンポは人によって好き嫌いの別れるところかとは思いますが、

ただ無駄に一つ一つの場面を描いているのではなく、

そうするからこそ表現できるものがあるのだということを理解させてくれる作品であると言えます。

強烈でドライな暴力表現と、常に画面に満ちている緊張感も、
この作品ならではのものです。

ますますスピードを速め、映画をじっくり楽しむ暇さえなくなっていくような世の中ですが、

そんな風潮に一石を投じるような作品として、

『ブルータル・ジャスティス』、ぜひ書き残しておきたい映画でした。

『ブルータル・ジャスティス』を楽しむならU-NEXT

まだ『ブルータル・ジャスティス』を見ていないという方は、
ぜひU-NEXTをお試しください。

今なら「31日間無料トライアル登録」の特典でもらえるポイントで、
『ブルータル・ジャスティス』を視聴することができます!

UーNEXTには独占配信の作品も数多くあり、
個性的なラインナップが揃っていますので、
映画の世界をもっと深く楽しみたい人にもおすすめです。

この機会にぜひ充実した映画ライフを楽しんでみてください!

↓こちらをクリック!



————————————————————————
本ページの情報は2021年6月時点のものです。
最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。
————————————————————————