映画化されるまでにぜひ読んでおきたい!スティーヴン・キング『呪われた町』小説版をおすすめしたい理由

ポケモンとスティーヴン・キング

「おとこのこが 4にん せんろのうえを あるいてる・・・」

こちらはゲーム『ポケットモンスター赤・緑』の主人公の家のテレビで登場するセリフです。

『ポケットモンスター』が「少年の旅立ち・冒険」を1つのテーマにしていることを示す、
1986年のアメリカ映画『スタンド・バイ・ミー』のイメージを用いた演出ですね。

映画好きの方には説明するまでもありませんが、
『スタンド・バイ・ミー』は思春期の少年たちのひと夏の冒険を描いた傑作青春映画。

ポケモンシリーズで言及されるほど多くの人々の記憶に残っている名作ですが、
映画原作の『THE BODY』も映画とは少し異なるテーマを織り込んだ必読の短編小説です。

今回はそんな『THE BODY』の作者であり、
モダン・ホラーの帝王ともいわれるスティーヴン・キングの、
これまた最高傑作といわれている長編小説『呪われた町』について取り上げます。

『呪われた町』は2019年に実写映画化が報じられ、
今年に入って監督・製作総指揮についても発表がありました。

監督は『死霊館』『アナベル』シリーズの脚本を務めたゲイリー・ドーベルマン、
製作総指揮は『ソウ』シリーズのジェームズ・ワンということで、
ホラーファンには非常に期待の高まる布陣となっています。

映画をもっと楽しむことができるよう、この記事では『呪われた町』の魅力を語っていきます!

https://eiga.com/news/20200427/13/

『呪われた町』の紹介に入る前に、
最初はスティーブン・キングについて手短に書いていきます。

スティーヴン・キング作品に触れたことがあるかも?

スティーヴン・キングは1947年生まれのアメリカ人作家です。

1974年に超能力を持つ少女の暴走と悲劇を描いた『キャリー』でデビューを果たすと、
『呪われた町』(1975)『シャイニング』(1977)と続いて作品を発表していきます。

その後も『ザ・スタンド』『IT』『ミザリー』『グリーンマイル』など多くの小説を世に送り、
幾つもの作品が映画化・実写化されてきました。

『ショーシャンクの空に』『シャイニング』など映画好きでなくても知っている超有名作ですね。

『シャイニング』の超有名なワンシーン

胸糞映画として知られる映画『ミスト』もキング原作作品です。

あなたが観た、あるいは名前を聞いたことのある作品の1つに、
スティーヴン・キング原作の作品があるかもしれません。

彼は、練り上げられた多種多様な奇抜な設定を用いながら、
登場人物や情景を緻密な描写で浮かび上がらせつつ読者を恐怖させるその作風によって、
それまでのホラーとは一線を画す「モダン・ホラー」というジャンルを築き上げました。

先駆者にして頂点に存在する彼はまさにモダン・ホラーの帝王であり、
その作品はアメリカ国内にとどまらず様々なクリエイターに刺激を与え続けています。

続いて、彼の長編第2作に当たる『呪われた町』のあらすじを見ていきましょう。

ざっくりあらすじ

『呪われた町』のストーリーは、非常に単純明快です。

アメリカのどこにでもありそうな田舎町セイラムズ・ロットを舞台に、
徐々に迫り来る異常事態に立ち向かう人々。

かなりざっくり説明するとこんな感じでしょうか。

主人公のベン・ミアーズはかつてこの町に住んでおり、
町を出てから小説家となり、自作が図書館に置かれるくらいの成功を収めていました。

彼は子供の頃この町にある「マーステン館」という寂れた館で「ある物」を見てしまい、
それが30歳を過ぎたころになってもトラウマとして残っています。

マーステン館のイメージ

彼は改めてこの町に戻ってきて、
自らのトラウマを見つめなおす新作の執筆に挑もうとしていました。

そんななか、町の墓地では眉間に白い斑点のある犬の死体がゲートに吊るされていた…
という事件が発生します。

ここから徐々に町中に異常な事態が忍び寄っていきます。

死んだはずの少年が動き出したり、死体が忽然と姿を消したり…

終盤にかけて加速度的に高まっていく恐怖感は、小説を読み進んでこそ味わえるものですので、
実際に小説を手に取ってほしいと願うばかりです。

ちなみに、文春文庫版で上巻と下巻のページ数はほぼ同じくらいですが、
下巻を読むのにかかった時間は上巻の半分くらいでした。

なお、正式なあらすじ(文春文庫版)は以下にしっかり引用させていただきます。

荒れ果てた屋敷が丘の頂から見下ろす町、セイラムズ・ロット。
そこに幼い頃に住んでいた小説家ベンが帰ってきた。町は平穏に見えたが、ある夜、ベンは丘の上の屋敷に灯が点っているのを見る。あの屋敷を買った者がいるのだ。
そしてある日、幼い少年が忽然と姿を消した…
巨匠キングが恐怖の帝王の名を不動のものとした名作。

『呪われた町 上』文春文庫より

町に不吉な事件が頻発しはじめた。相次ぐ不審な死、そして甦る死者。
ベンと仲間たちは丘の上の屋敷に潜む謎に迫るが、忌まわしいものの魔手が彼らに…。
静かに降り積もってきた恐怖がついに怒涛となって爆発する!これぞ恐怖の帝王の本領発揮。
歴史にその名を刻む名作、読む者の呼吸を奪うクライマックスへ。

『呪われた町 下』文春文庫より

続いて、この小説の「ここが面白い!」というポイントをご紹介します。

アメリカの田舎町には住みたくない

今作で圧倒されてしまうポイントは、
「セイラムズ・ロット」という町、そこに住む人々の姿を詳細に描きこむ緻密な描写力です。

どこにでもありそうな町に住む、どこにでもいそうな人たち。

彼らは基本的には善良な人々ですが、
その生活にはこれまたどこにでもありそうな「悪」がはびこっています。

家に帰らない夫、言うことを聞かない赤ん坊に暴力をふるってしまう自分、
高校も中退して先の見えない人生に絶望しているサンディ。

下宿屋で使用人をしながら日々酒浸りの生活を送る老人ウィーゼル。

ネズミを銃で撃ち殺すのが楽しみのゴミ捨て場管理人ダッド。

電話会社の若者と不倫する人妻ボニー。

町のすべての歴史とスキャンダルを知り尽くす巨漢の老婆メイベル・ワーツ。

各自が「ありふれた悪」を抱えながら何事もないかのように生活を営み、
一方では誰もが隠れた好奇の目に常にさらされている。

田舎の排他的で閉塞的な雰囲気と、
噂話があっという間に広がっていく陰湿さの描写は圧巻です。

彼らの行動や思考が細部にわたって描写されることで、
セイラムズ・ロットという町の存在がリアリティをもって浮かび上がってきます。

この事件は遠い世界ではなく、どこかに実在するような町で起きているのだと、
現実離れした恐怖が現実感をもって読者に迫ってくるということですね。

個人的にサンディ役をやってほしい
フローレンス・ピュー

閉鎖的で陰湿な田舎の町というのは、
金田一耕助シリーズで有名な横溝正史の作品でも舞台としてよく使われています。

八つ墓村にも獄門島にも住みたくないなあと思ったものですが、
セイラムズ・ロットはそれよりは多少マシでしょうか?

キングの小説ばかり読んでいると、
「アメリカの田舎町には住みたくない!」と勝手に偏見を植え付けられます。

田舎出身でもなければアメリカに行ったこともない人間にそこまで感じさせる、
キングの人間観察力や描写力の凄まじさです。

ドラキュラというジャンルを現代流に再構築

本書の解説で、文芸評論家の風間賢二氏は以下のように述べています。

つまり、キングはドラキュラ・タイプの吸血鬼物語を『呪われた町』で総決算し、結果的に終止符を打った形になったからだ。後続の作家たちは、その聳え立つ塔を前にして首を垂れて退散するしかない。この塔を凌駕する建築物を設計することは不可能だ、と思い知らされながら。

『呪われた町 下』 文春文庫 p372 より

この文章だけでも『呪われた町』の凄さが伝わろうというものですが、
以下に内容を補足していきます。

『呪われた町』以前のドラキュラ物語では、
外部から襲い来る侵略者・脅威としてのドラキュラを描くというのが基本でした。

しかし、『呪われた町』ではドラキュラはあくまで「招かれたもの」であり、
メインは悪霊の住み着く町であるセイラムズ・ロットとなっています。

ドラキュラそのものを脅威として描くというよりも、
悪が栄える場所、そこに住む人々の姿を描くという転回を成功させたことが、
まさに『呪われた町』が風間賢二氏言うところの「聳え立つ塔」である理由ということですね。

それ以降、ドラキュラの描き方としては、『トワイライト』シリーズのような、
「悩める美青年」系吸血鬼というニュータイプが登場してきています。

噛まれてもいいタイプのドラキュラ

『シャイニング』『IT』への展開

『呪われた町』はキングの長編第2作ということで、
『シャイニング』『IT』などその後の代表作につながる要素を見て取ることができます。

以下に主だったところを3つ列挙していきましょう。

①場所そのものが呪われている
②平穏な日常に訪れる異常事態
③日常描写の緻密さ

①場所そのものが呪われている

『呪われた町』で象徴的に描かれるのは、町を見下ろすように立っている「マーステン館」です。

マーステン館では過去に夫婦が死んだ惨劇が発生したこともあり、
異様な雰囲気を放つ忌まわしい場所として作中に登場します。

主人公のベンがあるトラウマを抱えたのもここですし、
吸血鬼が拠点として住み着くのもこの館です。

話が進むにつれて、マーステン館そのものが悪の象徴であり、
これがセイラムズ・ロットに悪を呼び込むのではないか?という考察がなされます。

場所そのものが呪われており、そこに悪が呼び寄せられる。

こうした機能を持つ場所はその後、
『シャイニング』のオーバールック・ホテル、『IT』の町はずれの廃屋といった形で、
キングの作品世界に再登場していきます。

オーバールック・ホテル

②平穏な日常に訪れる異常事態

セイラムズ・ロットの町は本当にどこにでもありそうな、平穏な町です。

そこに吸血鬼が入り込んで徐々に普通ではない事態が起こっていき、
人々の闇の部分が増幅され、惨事へとつながっていく。

『呪われた町』で見られるこうしたストーリー展開は、
『シャイニング』『IT』などでも共通しています。

例えば、『シャイニング』でのジャック・ニコルソン演じる狂気的な父親の姿。

冬の閉鎖されたホテルという環境の中で、最初こそ平穏な日々を送っていた彼が、
徐々に狂気を増幅されて家族に襲い掛かる。

平穏な日常が破られる恐怖感こそキング作品の魅力となっており、
それは長編第2作目『呪われた町』ですでに完成されているともいえるでしょう。

平和な日常に突如現れるペニーワイズ

③日常描写の緻密さ

これは上述した点でもありますが、
平穏な日常が緻密に描写されることで、平穏な日常が破られる恐怖は一層高まります。

『呪われた町』では様々な実在する映画や小説、雑誌、ポップソング、商品が登場して、
現実と地続きのようなリアリティを作品に付与しています。

アメリカ在住経験のない私にはあまりピンとこないものもしばしばありますが、
新海誠『天気の子』でチキンラーメンなど実在の商品が登場していたようなイメージでしょうか。
(企業とのタイアップという点でニュアンスは異なりますが)

実在の製商品を登場させるキングの手法によって、
読者はアメリカの人々の生活をリアルに想像することができます。

かつての生活を詳細に描き出す手法にはその時代のノスタルジーを書き立てる効果もあり、
『スタンド・バイ・ミー(原題:THE BODY)』のような青春小説でも効果を発揮しています。

『呪われた町』に登場する月刊の総合ファミリー雑誌
「リーダーズダイジェスト」

その他~キャラハン神父~

『呪われた町』で重要な役割を果たすキャラハン神父ですが、
彼はキングの長編大作『ダークタワー』にも登場します。

神父がある理由からセイラムズ・ロットを去ったあと、どのような日々を送ってきたのか?

また、作家のベンと少年ペトリ―はその後どうなったのか?

彼らのその後が気になる方は、ぜひ『ダークタワー』シリーズを手に取ってみてください。

~『呪われた町』を読んだ後は~ おすすめ関連作品

さて、最後は『呪われた町』を読んで面白いと感じられた方に向けて、
その先に読んでみてほしい関連作品をご紹介します。

『吸血鬼ドラキュラ』(1897)ブラム・ストーカー

吸血鬼物語の基礎となった古典的名作。

『呪われた町』もブラム・ストーカーの本作を下敷きにしており、
ストレイカー、バーローという登場人物の名前はブラム・ストーカーのアナグラムとなっています。

『シャイニング』(1977)スティーヴン・キング

ジャック・ニコルソン主演の1980年の同名映画はあまりにも有名。

ただ、映画版は小説版とはかなり異なる点が多く、
キングが本当に表現したかったものを知るには小説版を読むのがおすすめです。

小説版を読むことで、映画版の理解も深まりいいこと尽くしです。

『ザ・スタンド』(1978)スティーヴン・キング

『シャイニング』の次にキングが描いた長編作品。

カリフォルニアの細菌研究所から漏れ出した死のウイルスと、
それに翻弄され崩壊していく社会を描く1作です。

かなりのボリュームのある作品ですが、こちらもキング初期作品の傑作となっており、
『呪われた町』にハマった人ならきっと楽しめるはず。

『死のロングウォーク』(1979)リチャード・バックマン

リチャード・バックマンはスティーヴン・キングのもう1つのペンネームです。

キングが大学1年生の時に書かれたこの小説は、
立ち止まったら殺される「ロングウォーク」という競技に参加する少年たちを描いています。

若き日のキングの才能を感じさせる本作ですが、
こちらも映画化が決定しており、ぜひ読んでおきたい作品の1つとなっています。

『屍鬼』(1998)小野不由美

『十二国記』シリーズで知られる作家・小野不由美が、
『呪われた町』へのオマージュとして完成させた作品が『屍鬼』です。

『呪われた町』との設定は非常に類似しており、
そこから浮かび上がる日本とアメリカの国民性の違いなども感じ取れるかもしれません。

最後に

ポケモンにキング原作の映画『スタンド・バイ・ミー』を思わせる演出があることは、
はじめに紹介させていただきました。

そんなポケモンの下敷きとなったゲームが、
糸井重里氏によるゲームデザインで知られる『MOTHER』(1989)です。

『MOTHER』はアメリカの架空の町「マザーズデイ」で起こった怪奇現象に立ち向かう少年たちを題材としたゲームで、ここでも『スタンド・バイ・ミー』を思わせる演出が使われています。

日本人の持つ「アメリカのどこにでもある町」のイメージに対して、
キングの作品はどれだけの影響を与えていることでしょうか。

キングが後続の作家・クリエイターたちに与えた影響はあまりに大きく、
その影響力は日本でいうところの手塚治虫級といっても過言ではないと思います。

そんなキング作品のなかでも、
『呪われた町』はその後に展開される数多くの作品の母胎ともいえる面白い作品でした。

自分の本棚にもキング作品の占める幅が徐々に増えつつあり、
置き場が無くなる日もそう遠い先の事ではなさそうです。

たとえ自室がキング作品で埋まってしまったとしても、
このブログでは今後もキング作品を映画・小説どちらも取り上げていきます!

ここまでお読みいただきありがとうございました!

みなさんもぜひこの小説を手に取ってその面白さを体感してみてください!

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