『スカーフェイス』エンディングまで ※ネタバレあり
ソーサとの取引~フランクとの決裂
フランクの部下となったトニーは、
オマールと共にボリビアの麻薬王ソーサとの取引に赴く。
オマールはソーサとの取引が巨大になることを恐れて一度話を持ち帰ろうとする。
しかし、トニーは独断専行でこの取引を実現させようと口を挟む。
大胆不敵なトニーを気に入ったソーサは、
オマールをヘリコプターから首吊りにして殺し、トニーと取引を結んだ。
マイアミに帰り嬉々として事の顛末を報告するトニーに、
フランクは独断専行を理由に非難を浴びせる。
トニーがエルビラに言い寄っていることも相まって、
二人の対立は決定的なものになっていた。
そして、フランクがバビロン・クラブで差し向けた殺し屋たちによる襲撃から辛うじて生き延びたトニーは、マニーたちと共にフランクの事務所に乗り込み、
フランクとその仲間の悪徳警官メルもろとも撃ち殺し、復讐を果たす。
フランクのビジネスとエルビラを手に入れたトニーが見上げた空には、
「The world is yours」と書かれたパンアメリカン航空の飛行船が浮かんでいた。
麻薬王としての成功と危機
ポール・エンゲマンの『Push it to the limit』をBGMに、
トニー達の成功とエルビラとの結婚がハイライトで描かれる。
麻薬王として成り上がり、巨大な豪邸に住むようになったトニーだったが、
自分以外を信じることができない彼とエルビラやマニーとの関係は悪化していく。
そんな中、トニーは連邦捜査官によって脱税の容疑をかけられる。
何としても懲役を逃れるため、彼はソーサが持ちかけてきた取引に協力することとなった。
それは、ソーサやその周辺の軍人らの犯罪を暴こうとするジャーナリストを暗殺する代わりに、トニーの刑務所行きを回避することができるというものだった。
暗殺の失敗とマニーの死
ジャーナリストを暗殺するため、トニーはソーサの手下アルベルトと共にニューヨークへ向かった。
アルベルトがジャーナリストの車に爆弾を仕掛けた翌日、
彼らは暗殺を決行しようとする。
しかし、本来乗るはずのなかったジャーナリストの妻子が車に乗り込んでしまったため、
トニーは葛藤の末アルベルトを射殺し、結果的に暗殺に失敗してしまう。
マイアミに戻ったトニーのもとに、
ソーサからの怒りの電話が鳴り響く。
逆上して啖呵を切ったトニーを殺すため、ソーサは手下を差し向ける。
ソーサの手下が迫る中、トニーは妹のジーナの家に向かっていた。
トニーの母は彼のせいでジーナの素行が乱れたと彼を非難する。
ジーナの居場所を母から聞かされたトニーがそこへ向かうと、扉から出てきたのはマニーだった。
マニーとジーナが関係を持っていることを知り、
トニーは怒りのあまりマニーを撃ち殺してしまう。
マニーの死体の側で泣き崩れるジーナを連れて、
トニーは自宅へと戻るのだった。
ラストシーン
彼の邸宅の庭園にはソーサの手下が入り込んでいたが、
トニーは大量の麻薬で朦朧とした状態に陥っていた。
兄の屋敷に連れられたジーナはマニーを失ったショックで発狂し、トニーに銃口を向ける。
しかし、ベランダからトニーの背後に迫っていたソーサの手下がマシンガンを乱射し、ジーナは惨殺されてしまう。
敵がすぐそばに迫っていることを知ったトニーは、
グレネード付きM16を乱射しながら敵の前に踊り出る。
トニーは銃弾をものともせず敵をなぎ倒していく。
しかし、屋敷に噴煙が立ち込める中、
ついに背後からのショットガンの一撃がトニーを襲う。
トニーは両手を広げたまま階下の噴水へと落下し、
「The world is yours」と書かれた像の下で息絶えるのだった。
『スカーフェイス』の名台詞
The world is yours
フランクらを殺し終えたトニーが建物の外に出ると、
パンアメリカン航空の飛行船が明け方の上空をゆっくりと飛んでいきます。
飛行船の電光掲示板に映し出されるのが、「The world is yours」という言葉です。
パンアメリカン航空は1991年に倒産しましたが、
1970年代には航空業界を代表するスターキャリアでした。
世界一周航路の開設、
大量輸送を実現したジャンボ・ジェットのボーイング747の導入、
ビジネスクラスの発案など、世界の航空産業をリードする存在だったのです。
また、パンアメリカン航空は世界中に広範な路線網を広げていく一方で、
ベトナム戦線の米兵をホノルルや香港、沖縄などの保養地へ輸送する特別便など、
アメリカ政府への協力を継続的に行ってきました。
そのためパンアメリカン航空はアメリカ帝国主義を象徴する存在としての側面を持ち、
1970年のPFLP旅客機同時ハイジャック事件など、
反米組織によるハイジャックやテロのターゲットとなることもありました。
アメリカを体現する航空会社から発せられる
「The world is yours」というメッセージは、まさしくアメリカを象徴する価値観です。
フィデル・カストロによる社会主義国家を嫌い、
アメリカでの成功を果たしていくトニー・モンタナが崇拝する言葉として、
またこの映画のテーマとしても非常に印象的です。
この言葉によって飾られた噴水の下で浮かぶトニーの死体は、
アメリカ的価値観の虚しさを強調しているようです。
Say hello to my little friend!!
ソーサの手下が屋敷の中にまで迫ってきたことを知ったトニーが、
部屋に備え付けられたグレネードランチャー付きのM16をぶっ放すシーンでの一言。
キューバ訛り全開の下品なセリフで敵に敢然と立ち向かう、
パワフルで狂気的な彼の死にざまを象徴するセリフとなっています。
Fuckの回数
トニー・モンタナは事あるごとに、というより四六時中「Fuck!」と連呼しています。
Wikipediaによれば、その回数は207回。当時の映画では最多だったといわれています。170分で207回ですので、約50秒に1回は「Fuck!」と叫んでいる計算です。
同じアル・パチーノでも、マイケル・コルレオーネとは全く違うキャラクターですね。
YouTubeには、作中の「Fuck!」シーンを集めたトレーラーも公開されています。
ちなみに、現在の「Fuck!」回数第1位は、
ディカプリオ主演の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)の569回です。
『スカーフェイス』が与えた影響
ブラック・カルチャー
何も持たない一人の男が、どん底からもがき苦しみながら成功や繁栄を手に入れる、
『スカーフェイス』におけるトニー・モンタナのストーリーは、
ヒップホップの精神と呼応してストリートで高く評価されるようになりました。
以下のトニーのセリフは、まさにヒップホップの精神と呼応するものと言えます。
“In this country, you gotta make the money first. Then when you get the money, you get the power. Then when you get the power, then you get the women”
「この国では、まず金を稼がなければならない。この国ではまず金を稼ぐことが先決で、金を手に入れたら権力を手に入れる。権力を手に入れたら女を手に入れる」
Jay-ZやThe Notorious B.I.G、スヌープ・ドッグなど、
数多くのラッパー・ミュージシャンが『スカーフェイス』からの影響に言及しています。
公開当初はその過激さから酷評された『スカーフェイス』ですが、
トニーにヒップホップと共通する上昇志向を見いだしたラッパーたちによって、
ヒップホップのバイブル作品としての地位を確立していきます。
GTA(グランド・セフト・オート)
日本では2004年にロックスター・ゲームス社から発売された、
クライム・アクションゲーム『Grand Theft Auto:Vice City』。
この作品は『スカーフェイス』から強い影響を受けた作品となっています。
『スカーフェイス』を見た人には分かるオマージュが複数あります。
・ゲームの舞台はマイアミ、主人公の名前はトミー。
・作中にトニー・モンタナが暮らしていたのとそっくりな屋敷がある。
・あるアパートには血まみれのバスルームがあり、武器としてチェーンソーが置かれている。
・フランクやトニーが通っていた「バビロン・クラブ」そっくりのマリブ・クラブがある。
などなど。
また、小ネタですが、ゲームの主人公トミーの声は『グッドフェローズ』で知られるレイ・リオッタが担当しています。
『スカーフェイス』を見た後は
『スカーフェイス』が面白かった!という人におすすめしたい作品を紹介します。
『暗黒街の顔役』1932年
1932年に公開された、ハワード・ホークス監督によるフィルム・ノワールの傑作。
フランシス・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972年)にも影響を与えた。
『ゴッドファーザー』1972年、1974年、1990年
マフィア映画の王道にして頂点に君臨する三部作。
主人公のマイケル・コルレオーネをアル・パチーノが演じている。
まだ見ていない人が羨ましいほどの傑作。
『キャリー』1976年
ブライアン・デ・パルマ監督、スティーブン・キング原作の青春サイコホラー映画。
思春期の恐怖・残酷さと無惨なカタルシスが描かれる。
主演のシシー・スペイセクは一度見たら忘れられないはず。
『アンタッチャブル』1987年
こちらも同じくデ・パルマ監督作品。
トニーのモデルとなった伝説的マフィアのアル・カポネと、
彼を逮捕しようとする捜査チーム「アンタッチャブル」の死闘を描く。
1920年代シカゴのクラシックな雰囲気が面白い。
『アマデウス』1984年
『スカーフェイス』では小物マフィアを演じているF・マーリー・エイブラハムだが、
この作品では天才モーツァルトに嫉妬する作曲家のサリエリを演じ、
アカデミー賞主演男優賞を受賞している。
感想
当然のように吐きだされる罵詈雑言と強烈なパンチライン、
チェーンソーでバラバラにされるエンジェル、
登場人物が平然と麻薬をキメている世界観、
何度撃たれても倒れずに敵をなぎ倒していくラストシーンなど、
『スカーフェイス』はまさにマフィア(ギャング)映画の面白さが凝縮された170分です。
強烈な個性をもって派手に暴れまわるトニー・モンタナをアル・パチーノが演じていますが、
『ゴッドファーザー』シリーズとのキャラクターのギャップにも驚かされました。
自らの力で成り上がり、華々しく散っていくトニーの生きざまにはとにかく引き込まれるものがあります。
めちゃくちゃな言動ではあるものの最低限の筋は通し、
女子供は殺せないという冷徹になり切れない一面があるのもまた魅力的です。
妻を失い、最愛の妹や右腕のマニーを失い、部下も失い、
終いには背後からショットガンで撃たれ、噴水に浮かんで息絶えるトニーの姿にはまさに虚しさを感じざるを得ません。
『スカーフェイス』も『ゴッドファーザー』も、
全てを犠牲にした成功の虚しさという点では共通する部分があるように感じられました。
スティーブン・バウアー演じるマニーの凡庸ながら忠実な右腕感、
オマールとフランクの小物っぷり、
気の強いエルビラを演じているミシェル・ファイファーの美貌など、
脇を固めるキャラクターもハマっています。
ド派手さと虚しさを兼ね備えたこの映画の魅力は、
ヒップホップやゲームの世界などに引き継がれていっています。
それらの原典として、一見の価値がある作品でした。
今後もマフィア・ギャング映画はいろいろ見ていこうと思います!
ここまでお読みいただきありがとうございました!
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