リドリー・スコット監督『ハウス・オブ・グッチ』を観てきました。
現在84歳(1937年生)のリドリー・スコット御大ですが、
『最後の決闘裁判』(2021)でも大きな話題を呼ぶなど、
その創作意欲は衰えるところを知りません。
今作でもレディー・ガガやアダム・ドライバー、
アル・パチーノといったスター俳優たちの共演で注目を集めています。
今回も映画レビューサイト『Rotten Tamatoes』の
Top Criticsレビューをもとに、
今作の評価や見どころを考えていきます。
『ハウス・オブ・グッチ』 基本情報・あらすじ
『ハウス・オブ・グッチ』はリドリー・スコット監督による2021年の作品です。
あらすじはこんな感じです。
世界的ファッションブランド「グッチ」の
創業者一族出身のマウリツィオ・グッチにとって経営参加は魅力的には映らず、
経営権は父ロドルフォと伯父アルドが握っている状態だった。
そんな中、グッチの経営権を握ろうと
野心を抱くパトリツィア・レッジアーニはマウリツィオと結婚し、
グッチ家の内紛を利用して経営権を握っていく。
しかし、一族間の対立激化と共に夫マウリツィオとの関係が悪化し、
夫婦間の対立はやがてマウリツィオ殺害事件へと発展していく。
主要キャストはレディー・ガガ、アダム・ドライバー、
アル・パチーノ、ジャレッド・レトらです。
上映時間は159分と比較的長め。
では今作の評価がどうなっているのか、
映画としての見どころはどこか、
海外のレビューを参考に見ていきたいと思います!
全体として、
トマトメーターは63%、
オーディエンススコアは83%。
批評家からの評価は振るわずながら、
一般観客からはそれなりに高い評価となっています。
また、ここから先は映画の内容が含まれますので、ご注意ください。
洗練されたブティックではなく、詰め込みすぎのデパートに似ている
But these visuals are just a special-effects of sorts, elements that keep “House of Gucci” on its feet when the film trips on its overlong train elsewhere. You come to it for a sophisticated boutique experience, but what you walk out of feels awfully close to an overstuffed department store.
https://www.rogerebert.com/reviews/house-of-gucci-movie-review-2021 より一部抜粋
こちらはRogerEbert.com のTomris Laffly氏のレビューです。
今作は高級ブランドであるグッチの一族が題材となっているほか、
レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノといった、
人気のスター俳優陣が共演した作品で、作品としての外観は非常にリッチです。
実際、レディー・ガガのファッションの煌びやかさだったり、
豪華絢爛な部屋の内容だったり、
グッチという題材ならではの画面の豊かさを感じさせます。
しかしながら、弱点として指摘されているのが、
映画としてのトーンが一貫していないという点です。
この映画には、
グッチ一族の栄光と転落を描く物語のシリアスさが一方にあり、
もう一方にはパトリツィアの情念がほとばしる
ややコメディチックなメロドラマがもう一方にあります。
前者はアダム・ドライバーとアル・パチーノが、
後者はレディー・ガガとサルマ・ハエックが中心です。
これを作品としての緩急と考えることもできようかと思いますが、
こちらのレビューでは「詰め込みすぎのデパート」と評されてしまっています。
映画のルックスから期待される、
洗練されたシリアスな企業ドラマとはもう少しテイストが異なり、
実際にはブラック・コメディというべき作品だったといえます。
社会的な意義や心に残るものはない
Scott treats the Gucci saga as a mere yarn (albeit a ripping one), the cinematic equivalent of a series of jovially recounted barstool anecdotes that void the story’s social implications and haunting psychology. Patrizia is a Lady Macbeth without depth—without a sense of the deep twistedness that her ruthless behavior suggests, without any hint of the violence in her character.
さて、こちらはNew YorkerのRichard Brody氏によるレビューの一部です。
今作のもう1つの弱点として、
人物や物語の描写が表面的なものになってしまっている点が挙げられます。
例えば、パトリツィアの暴力性や財産への執着がなぜもたらされたのかといった、
人物たちの性格や考え方の掘り下げというのはあまり行われていません。
159分という上映時間、
また世界的な高級ブランドであるグッチの創業者一族の悲劇という
世界的にもセンセーショナルな題材を扱っただけに、
その渦中にあった人物たちのドラマが十分に描かれなかった点について、
物足りないものがあったといえます。
「見た目は美しいが本当の中身はこんなものだ」という、
ブランドが持つ1つの側面を描いた作品ではありますが、
グッチ一族の物語がもつ社会的な意義にはあまり踏み込んでいませんでした。
結局のところ、これはレディー・ガガの映画なのだ。
In the end, this is Lady Gaga’s film: her watchability suffuses the picture, an arrabbiata sauce of wit, scorn and style.
最後は、GuardianのPeter Bradshaw氏のレビューです。
ここまで否定的なレビューを観てきましたが、
個人的には決してつまらない映画ではありませんでした。
それはなぜかと考えると、
やはり俳優陣の熱演という点が挙げられると思います。
中でも、レディー・ガガの存在感はやはり際立っていました。
ファッショナブルなスーツに身を包んだ、
欲深く、計算高く、野望に満ちたパトリツィア・レッジャーニという女性を、
レディー・ガガは迫力満点に演じています。
彼女がアダム・ドライバー演じるマウリツィオ・グッチに接近し、
徐々に権勢を手に入れていく成り上がりの過程が、
この映画の面白さの大部分を支えていました。
アダム・ドライバーとのセックスシーンも、
絶頂に達する瞬間に、花嫁衣裳で教会に堂々と姿を現すシーンに切り替わる演出で、
かなりコメディ的で劇中でも妙に印象に残るシーンでした。
また、マウリツィオ・グッチのおじである
アルド・グッチを演じたアル・パチーノも彼らしいキャラクターで、
今作に必要な重みを与えてくれています。
とくに、息子のパオロからグッチの持ち株を売るという話を聞き、
売り先のファンドと面会するシーン。
自分たちを裏切ったのが甥のマウリツィオだと知るシーンなのですが、
その瞬間の表情の演技が圧巻でした。
この瞬間だけは、この映画に『ゴッド・ファーザー』の貫禄がありました。
チープなソープオペラから『ゴッド・ファーザー』まで、
作品のトーンが一貫しなかった作品というのもうなずけます。
ほかには、アルドの無能な息子パオロを演じていた、ジャレッド・レト。
実在の人物とは全然違ったようですが、
ハゲロン毛という見た目で、狂人じみたキャラクターを巧みに演じていました。
カメレオン俳優としての本領が発揮されている作品だったのではないでしょうか。
上2つのレビューのマイナス点がありながらも、
ガガをはじめとする俳優陣の熱演が作品にエネルギーを注いでいる、
そんな作品になっていたと思います。
Rottentomatoesのスコアで、
オーディエンススコアが80%を超えていた理由も、
そんなところにあるのかもしれません。
それと、実話ベースの映画ということで、
グッチを巡る実話もぜひいろいろ調べてみてください。
ともすれば映画以上に面白い、まさに事実は小説より奇なりです。
ハウス・オブ・グッチ 上 (ハヤカワ文庫NF) [ サラ・ゲイ・フォーデン ] 価格:990円 |
ハウス・オブ・グッチ 下 (ハヤカワ文庫NF) [ サラ・ゲイ・フォーデン ] 価格:990円 |
まだまだ精力的な創作活動を続けるリドリー・スコット監督、
どこまでも映画を作り続けてほしいと思います。
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