「新任の上司と合わず、職場でも孤立しています。」映画お悩み相談室 Vol.3 ~『県警対組織暴力』~

「新任の上司と合わず、職場でも孤立しています。」

さて、映画お悩み相談室、
今回のお悩みはペンネーム:お茶漬けさん (40歳・男性) からです。

さっそくご紹介しましょう。

「こんにちは。

私は高校を卒業して地元の企業に就職し、
営業として20年以上働いています。

お客さんとも良好な関係を築いており、
とくに大きな悩みもなく仕事に打ち込むことができていました。

しかし、最近になって本社から新しい上司が赴任してきました。

その上司は赴任してすぐ、私の仕事の進め方にあれこれと口を挟んできました。
お客さんとの慣れあいはやめて、もっと売り上げを上げろというのです。

年齢も下で、地元のことも営業のこともよく知らないその上司と考え方が合わず、
ことあるごとに対立してしまっています。

私が親しくしていた先輩も上司と揉めて会社を去ってしまい、
私も職場で孤立気味な状態です。

上司の強引なやり方によってお客さんとの関係も悪化し始めており、
何もかもが悪い方向へ向かっているようです。

この頃は、上司を辞めさせる方法とか、40代からの転職とかで検索をかけては、
日々溜息をつく毎日です。

私はいったいどうしたらよいのでしょうか・・・」

『県警対組織暴力』的回答

サラリーマンとして働くうえで避けられないのが、上司との折衝ですね。

上司ガチャの結果次第で会社は天国にも地獄にもなろうというものです。

20年以上地元で働いてきたお茶漬けさんからすれば、
年下で経験も浅い上司があれこれ口を挟んできたらいい気持ちはしないでしょう。

『県警対組織暴力』の主人公である久能(菅原文太)が、
まさしくお茶漬けさんと同じような立場に置かれた人物として挙げられます。

久能は地元警察の刑事として、
地元の暴力団の広谷(松方弘樹)と密接な距離を保って街の治安を維持してきたのですが、
そこに暴力団排除を掲げる県警のエリート海田(梅宮辰夫)が赴任してきます。

暴力団と関わりを断つように迫る海田と、
これまで関係を保ってきた広谷との間で、
久能は次第に苦しい立場へと追い込まれていきます。

あちらを立てればこちらが立たず、
こちらを立てればあちらが立たず。

県警、ヤクザ、果ては政治家たちの思惑が交差した結果、
久能は最後には自分の組織人としての立場を優先した決断を下しました。

お茶漬けさんも『県警対組織暴力』の久能の振舞い方を見れば、
今後の身の振り方の参考になろうかと思います。

ぜひご覧になってみてください。

ですが、一番いいのはうっとうしい上司がいなくなってくれることですよね。

そこで、お茶漬けさんにはその新任上司の身辺を徹底的に洗ってみることをおすすめします。

なぜその上司はお客との関係を悪化させるほど強引に売り上げを上げたいのでしょうか?

もしかすると、その上司は誰かの思惑を実現させるために、
無茶なことを要求しているのかもしれません。

上司の交友関係を探って、
何か弱みを見いだすことができればチャンス到来です。

上司をゆするなり、自分のやり方に口を出すなと分からせてやるなり、
あなたのやりたい放題やってください。

ただし、上司にとても自分より年下に見えない貫禄がある場合は注意が必要です。

その上司が毎朝ラジオ体操をしている場合はもっと要注意。

とんでもない悪人の可能性があります。

ともあれ、最終的にどのような選択をするにしても、
あとに恨みが残るような事態にならないようお気をつけください。

闇夜の暴走車に襲われることもないとは言いきれませんので。

『県警対組織暴力』感想

『県警対組織暴力』(1975)は、
『仁義なき戦い』シリーズで知られる深作欣二監督作品の中でも、
最高傑作との呼び声高い作品です。

警察とヤクザとの間で板挟みになる久能の苦しみや、
自分の手を汚すことなく私腹を肥やそうとする人間への深作欣二監督の憤りが感じられる、
ヤクザ・警察映画の金字塔といっていい作品になっています。

最近では『孤狼の血』が『県警対組織暴力』を想起させる作品でしたが、
やはりオリジナルには熱気とカオスさで満ちあふれていました。

何が違うのか、脚本とか演出とかいろんな要因があるかと思いますが、
やはり時代の違いというのが大きいのでしょうか。

県警のエリートとして登場した海田こと梅宮辰夫があの貫禄ですから。

「海田さん、あんた、歳なんぼね?」(久能)

31だが?」(海田)

実際の梅宮辰夫は37~8歳くらいだったみたいですが、
いまの30代にあのテカテカした貫禄は出せないでしょう。
(松坂桃李が2021年で32歳)

ちなみに、この映画で梅宮辰夫が出ているシーンはどれも面白いです。
ラストのラジオ体操もなんか笑えます。

そのほかにも、終始何かをにらみつけている「どう!どう!」な松方弘樹
冒頭からいやらしさ全開の金子信雄など、
今の邦画ではなかなかお目にかかれない濃い味付けが楽しめます。

時代がもっていた活力、エネルギーというのは、
題材を同じくしてもなかなか再現しえないものなのかもしれません。

あと、個人的に好きだったのは、
日本刀でチンピラがスパッと首を切断され、
生首がごろごろと階段を転げ落ちていくシーン。

グロさはなく、その切れっぷりと転がりっぷりが愛おしいという場面です。

『孤狼の血』の五十子の末路とかは、
このあたりの描写へのリスペクトなんでしょうか。

そんなヤクザ映画としての暴力描写の面白さの一方で、
社会派なメッセージが込められた作品であるのも今作が最高傑作と呼ばれる所以。

誰が正義なのか、本当の悪は誰なのか、
なぜ映画はこのような結末を迎えてしまったのか?

戦後という時代が生み出されたのは、
ヤクザという存在が生み出されたのは何故か?

犠牲になるのは常に弱い立場の人間たちという、
社会の在り方に対する憤り。

『県警対組織暴力』だけで、いろんなことが語れるんじゃないかと思います。

主人公は警察ですが、サラリーマンでもなんでも、
組織の中で生きる人間に色々な示唆を与えてくれる作品でした。

そんな『県警対組織暴力』、興味のある方はぜひご覧ください。


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