「自分が本当にやりたいことが分かりません。」映画お悩み相談室 Vol.2 ~『太陽を盗んだ男』~

「自分が本当にやりたいことが分かりません。」

さて、映画お悩み相談室、
今回のお悩みはペンネーム:スーパーシティさん (30歳・男性) からです。

さっそくご紹介しましょう。

「こんにちは。

私は中学校で教員をしていて、
仕事や私生活でこれといった問題もなく平穏な日々を送っています。

今の生活に特別不満があるわけではありませんが、
ふとしたときに自分はなぜ生きているんだろうと考えることがあります。

何か打ち込めるような趣味でもあればいいなと、
いろいろ探してみたはみたものの、
自分が本当にやりたいことが分かりません。

そんな状態がこのところ続いていて、
何かに打ち込んでいるひとを見ると羨ましくなってしまいます。

いったいどうしたらよいでしょうか。」

『太陽を盗んだ男』的回答

人間というのは不可思議なもので、
平穏で満ち足りた生活を送っていると余裕がでてきて、
余計なことを考えたりするものです。

生きている理由なんてあってないようなものですので、
本当にやりたいことを見つけなければいけないという思い込みは捨てて、
その場その場で興味が湧いたことをやっていけばいいのではないでしょうか。

いろいろ経験すれば人生に深みも出てくるはずです。

しかしそうはいっても、充足感の無い生活をどうすれば解決できるのか、
スーパーシティーさんからすれば切実な問題かと思います。

そこでスーパーシティーさんにおすすめしたいのが、
創作活動に打ち込むことです。

偶然にもあなたと同じ中学校の教師という立場で
同じような悩みと向き合った男の物語『太陽を盗んだ男』を例にとってみましょう。

『太陽を盗んだ男』の主人公である城戸誠(沢田研二)は、
授業ではカリキュラムを無視して原子力に関して語り続け、
休み時間には校庭のネットを素手で登る奇行を繰り返します。

それらすべての奇行は何のために行われていたのか?

淡々と続いていく日常に飽き、生命力を持て余した城戸が思いついたのが、
原爆を自作しようという企みだったのです。

彼は理科教師としての知識と日々の奇行で鍛えた体力を使って原発からプルトニウムを盗み出し、
自室で原爆の製造を開始します。

淡々と流れていく日々のなかで、徐々に自分の作品が完成に近づいていく。

それがすべてを破壊する原爆だという愉悦。
自分自身がすべてを破壊する力を手に入れていく愉悦。

ローリングストーンズを来日させることだって、
東急デパートの屋上から5億円をばらまかせることだってできちゃいます。

これぞ創作の、人生の楽しみだといわずしてなんといえましょうか。

ぜひやってください。生の充足感があなたを待っています。

・・・とはいえ、スーパーシティーさんが理科の教師でないとすると、
いまから原爆を作れるレベルまで勉強するのはちょっと難しいかもしれませんね。

なので、現実的なところでいくと、
映画なんか作ってみるというのはどうでしょうか。

映画作りのためには脚本からなにからやることがたくさんありますので、
人生について考え込んでしまう暇もない、
忙しく充実した騒々しい日が続くはずです。

ただ、あまり映画作りに熱中しすぎて、
国会議事堂や皇居でゲリラ撮影をしたり、
首都高で無許可のカーチェイスを繰り広げたり
することがないようにしてください。

スタッフのなかから逮捕要員を用意しないといけなくなりますので。

『太陽を盗んだ男』感想

さて、日本映画史における奇作・怪作として名高い『太陽を盗んだ男』(1979)です。

原爆を自作して政府を脅す主人公の城戸誠を演じているのが、
ジュリーこと沢田研二というのが目を引きます。

1979年の全盛期のジュリーのスケジュールを押さえるのはかなり大変だったようですが、
その甲斐あってこの作品にはなにか妙な危うさ、気怠さ、色気が感じられます。

原爆を楽し気に作り上げていく過程は、
もはやジュリーのためのMVといってもいい仕上がりです。

他の誰かでも城戸誠を演じることはできたでしょうが、
今でも語り継がれるカルト作品ではなくなっていたかもしれません。

そしてそんなジュリーと、
あの菅原文太兄貴(山下警部の役)が対決するマッチメイクの面白さ。

この菅原文太がまた他の菅原文太と比べても際立ってタフ。

菅原文太が10メートル近い高さのヘリコプターから落ちるシーンをぶっこんでくるのが、
『太陽を盗んだ男』という映画です。

五接地転回法なんて技法は菅原文太には不要なんだと思い知らされました。

さらに、ラストのジュリーとの対峙シーンもまたタフ。

『スカーフェイス』『男たちの挽歌Ⅱ』でも同じことがいえますが、
何発撃たれても死なない人ってなんでこんなに面白いのでしょうか。
(よく考えるとトニーもホーも山下警部も全員死んでます。人間は銃で撃たれると死ぬようです。)

とにかく、菅原文太を見るだけでも楽しい映画です。

皇居に突撃する老バスジャック犯、石原さとみ風な池上季実子、
探せば探すほど突っ込みどころのあるスルメ映画でした。

この作品が樋口真嗣監督や大槻ケンヂなど、
数多くのクリエイターに影響を与えたというのも納得です。

ちなみに、自分が何でも実現できる力を持ったら
案外なにをしたらいいか分からないものかもしれませんね。

私は『風の谷のナウシカ』のマンガ版をアニメ化してもらいたいです。
『HUNTER×HUNTER』の連載再開でもいいです。

そんな『太陽を盗んだ男』、興味のある方はぜひご覧ください。

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