映画『孤狼の血』は『アウトレイジ』にも引けを取らない熱いヤクザ×警察映画だ!(ネタバレあり解説・配信サービス紹介あり)

『孤狼の血』(2018)作品紹介

作品紹介

『孤狼の血』は2018年に公開された日本映画です。

日本を代表するヤクザ映画『仁義なき戦い』の伝統を受け継ぎながら、
警察小説としての要素も掛け合わせた、熱量あるエンターテインメント作品になっています。

今回は、そんな『孤狼の血』が持つ魅力を紹介していきます!

監督

今作の監督は『日本で一番悪い奴ら』『凪待ち』などで知られる白石和彌が務めています。

引用元:Wikipediaより

他にも山田孝之主演『凶悪』など、
アウトローな作風を持つノワール作品で知られる白石監督の手腕は、
今作でも遺憾なく発揮されていますね。

ちなみに、『孤狼の血』に関するインタビューの中で、
監督自身がノワール作品で興行的な成功を収めていることについて、以下のように語っています。

最初に「映画をやりたいな」と思ったときには、別にヤクザ映画をやりたいとは思っていなかったし、やるとも思っていなかったですよ。ただ、助監督をやりはじめたときには、Vシネなんかで当たり前にヤクザものをやっていて。だから、色々と調べもしたし、時にはヤクザと一緒にロケハンしたり……そういう、助監督、映画屋としての経験値があったからだとは思います。それは資質というより、引き出しの問題なんじゃないかな、と。あとは、全面的に“それ”ばっかりが出すぎでもダメなんじゃないかな、と思います。「今の日本映画にはこれが足りないから、とにかくやろう」とかね。さじ加減は必要ですよね。例えば、観る人も、いきなり小指を切られるシーンがずっと続いたら耐えられないでしょうし。ちょっとずつ、ちょっとずつやっていかないと、というところはあります。

『孤狼の血』白石和彌監督インタビュー 松坂桃李の空手アクションから必要な残酷表現まで“ノワール”としての映画の作り方 より

主要キャスト

大上章吾:役所広司

日岡秀一:松坂桃李

高木里佳子:真木よう子

岡田桃子:阿部純子

一ノ瀬守孝:江口洋介

吉田滋:音尾琢真

五十子正平:石橋蓮司

尾谷憲次:伊吹吾郎

瀧井銀次:ピエール瀧

ナレーション:二又一成

原作小説『孤狼の血』

本作は、柚月裕子による長編警察小説シリーズである『孤狼の血』が原作となっています。

原作小説は第69回日本推理作家協会賞受賞作品として、
ヤクザを描いた作品というだけでなく、金融会社社員の失踪事件の真相に迫っていく、
ミステリー小説としてのハラハラとした面白さを味わえる作品です。

原作と映画では違っている点もいくつかあり、
映画と小説、どちらを先に観ても楽しむことができますが、
個人的には、小説から読むことをお勧めしています。

小説という表現技法だからこその工夫が凝らされており、
衝撃的な展開を楽しめると思います。

『孤狼の血』が持つ世界をもっと味わいたいという方は、
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『孤狼の血』が楽しめる配信サービス

さて、そんな映画『孤狼の血』ですが、
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この記事の後半で取り上げている『孤狼の血』の関連作品の中にも、
U-NEXTで見放題の作品がいくつもあります。

特に、『仁義なき戦い』シリーズは、『孤狼の血』を楽しめた人は必見の作品です。
かつて日本映画が持っていた圧倒的な熱量を感じとれるのは、
この映画を置いてほかにはありません。

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ちなみに、U-NEXTでは映画だけでなく雑誌や漫画も見ることができたりして、
個人的にも活用させていただいてます。


『孤狼の血』あらすじ

昭和63年、広島。

所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、
ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、
暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。
飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、
日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。

やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。
衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが……。

正義とは何か、信じられるのは誰か。

日岡は本当の試練に立ち向かっていく――。

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時代設定が昭和63年ということで、暴対法が成立する直前の時代になっています。

ヤクザが暴対法によって力を失っていったり、
地下に潜っていったりする前の、いわば最後の輝きの時代といってもいいかもしれません。

ちなみに、ヤクザというコミュニティが衰退していくなかで、
自らの居場所を見いだそうとする人々の物語として、
『すばらしき世界』『ヤクザと家族』といった映画もおすすめです。

『孤狼の血』の魅力① ~熱量あるキャラクターたち~

ここからは、『孤狼の血』の魅力について語っていきます。

ダークヒーロー・大上

最初の魅力は、役所広司演じる刑事・大上をはじめとする、
熱量あるキャラクターたち
です。

大上はコンプライアンス完全無視の違法警官なのですが、
彼のどこが観客を惹きつけるのか?

それはやはり、目的のためにはどんな手段も厭わない大胆さです。

勤務中のパチンコや風俗は当然ながら、
店にガソリンを撒いて放火するヤクザを拷問にかけるなど、
その悪行は枚挙に暇なし。

今の世の中はますますコンプライアンス重視になり、
正義の鉄槌」が叩き潰す相手を求めて彷徨い歩くような時代になっています。

そうした状況がもたらす息詰まるような感覚を、
全く意に介さず暴れ回る大上の姿は、現代のダークヒーローといえるものです。

彼の痛快なダークヒーローっぷりが、この物語を大きく引っ張っていきます。

役所広司は『すばらしき世界』で暴力性を秘めた元ヤクザを演じていたり、
『シャブ極道』という映画で覚醒剤漬けの若頭を演じていたりと、
ダークなキャラクターで存在感を放っています。

印象的なヤクザたち

大上の他にも、音尾琢真演じる加古村組の吉田は、いかにもな、
ザ・ヤクザというキャラクター。

非情に暴力的で下品な彼ですが、強がっていてもどこか間抜けな感じがあり、
この映画に絶妙なコミカルさを付与しています。

ヤクザ役でいうと、尾谷組の鉄砲玉である永川を演じた中村倫也も印象的でした。

現代のイケメン俳優ということで、ヤクザ映画に馴染まないように思えますが、
映画を見ればそんなことはないと感じられるはずです。

鉄砲玉としてカチコミに行く際の表情などは、二重の意味でキマってました。

この映画には「ヤクザは顔で食ってる」というセリフも出てきますが、
「顔」でインパクトを残すキャラクターもこの作品の魅力です。

映画未見の人は、ぜひお気に入りのヤクザを見つけてみてくださいね。

ヤクザ映画と女たち

ヤクザ映画に欠かせないのが、男を惹きつけてしまう魅力を放つ女優たちです。

『仁義なき戦い 広島死闘編』での梶芽衣子などは、今でも語り継がれています。

今作では、クラブ梨子のママ・高木里佳子を演じる真木よう子
日岡(松坂桃李)に接近する薬剤師・岡田桃子を演じる阿部純子などの女優が登場しています。

特に印象的だったのは阿部純子で、端的にいうとエロい

日岡とコインランドリーで出会ってからのシークエンスで持っていかれます。

彼女も含みのあるキャラクターですが、より映画を魅力的にしてくれている存在です。



『孤狼の血』の魅力② ~世間の風潮に抗う暴力表現~

今作を特徴づけているのは、世間の風潮に抗うような挑戦的な暴力表現です。

映画が始まって早々に、豚が糞をするカットがあり、
その糞を呉原金融の上早稲二郎が口いっぱいに詰め込まれるシーンが上映されます。

さらに、上早稲二郎はその後、ハサミで押し切られるように指を切断されるという、
めちゃくちゃ痛そうな目に遭わされる。

今作はこの「痛そう」な表現に躊躇がありません。

加古村組の吉田というヤクザの口を割るために、大上が彼を拷問するシーンでは、
男性器に埋め込まれた真珠が麻酔無しで切り出されます。

この映画ではそのシーンでカメラを背けるのではなく、
むしろクローズアップして見せつけていく。

肝が据わっている表現だからこそ、その恐怖や興奮が伝わるようになっています。

さらに挑戦的だったのが、「死体」の表現です。

誰の死体、ということはここでは伏せますが、
腐乱死体と溺死体、それぞれがしっかり画面いっぱいに映し出されます。

特殊メイクを駆使したリアリティのある死体がでかでかと映されるというのは、
この規模の日本映画では稀です。

監督自身は、これだけ挑戦的な表現を試みた理由を以下のように語っていますので、引用します。

それは、本来映画として見せるべきものはしっかり見せたほうが、物語が強くなるからですよ。露悪的に残酷な描写を見せろ、というわけじゃないです。今回の映画でもあまり好きではないというスタッフもいました。でも、一歩踏み込んだ表現をすることで、物語の展開としてより登場人物の感情が迫って観客も同じ気持ちになれると思ったので、そこはテレビで絶対にしない表現をしようと。見せないで作ることのほうが、むしろ難しくて、よりシンプルな作りになったと思いますよ。それと、東映のプロデューサーさんチームも、最初に企画を持ってきてくれたときから、「たいていのことは東映だから大丈夫。犯罪にならなきゃ大丈夫だから、やりきってくれ」と言ってくれたので。じゃあ、それは本気でやりきろう、と。

『孤狼の血』白石和彌監督インタビュー 松坂桃李の空手アクションから必要な残酷表現まで“ノワール”としての映画の作り方 より

総合すると、切断あり、切開あり、腐乱あり、溺死あり、
糞食あり、スプラッターあり、生首ありと、
今作にはヤクザ映画に期待するバイオレンスが満載されています。

近年の韓国映画はその暴力表現で注目を浴びていますが、
『孤狼の血』はその点では全く引けを取らない作品だといえます。

『孤狼の血』の魅力③ ~松坂桃李演じる日岡の存在~

さて、ここまでは『孤狼の血』のヤクザ映画的な面白さを中心に取り上げてきました。

しかし、それだけではやはりヤクザ映画の金字塔である『仁義なき戦い』には及びませんし、
単なる焼き直しになってしまいかねません。

そうなるのを回避して、『孤狼の血』をより個性的な作品にしているのは、
松坂桃李演じる日岡というキャラクターの存在です。

彼は所轄署に配属された大卒の新人ということで、
役所広司演じる地元の刑事・大上とは対照的なポジションにいます。

暴力団に対する規制が進んだ現代では、
『仁義なき戦い』のようなヤクザはもはやフィクションの存在であり、
ヤクザ映画もいわば時代劇のようなジャンル。

そのため、ヤクザという異世界の人々の行動原理や、
彼らを巧みに飼いならす大上というキャラクターの行動原理には、
ともすれば理解しがたいものがあります。

そこに、突如放り込まれた常識的な一般人・日岡という目線が入ることで、
観客は彼の立場に立って、「異常な世界に来てしまった…」という感覚を共有することができる。

この感覚の共有によって、観客は映画の世界に入っていけるというわけですね。

さらに、日岡と大上の凸凹コンビによるバディ物という要素が加わることで、
映画としての間口の広さ、ターゲットとして捉えられる観客の増加にもつながっていきます。

新人刑事とベテラン刑事の組み合わせということで、
デンゼル・ワシントンイーサン・ホークによる『トレーニング・デイ』(2001)とも、
共通した面白さを見いだすことができるのではないでしょうか。

『孤狼の血』と『仁義なき戦い』※ネタバレあり解説

ここからは『孤狼の血』がどのような映画であるのかについて、
ネタバレありで解説していきます。

ポイントは、『孤狼の血』の配給元が日本のヤクザ映画を担ってきた東映であることです。

1960年代、東映は鶴田浩二主演の『博徒』シリーズや、
高倉健主演の『日本侠客伝』といった任侠映画で大ヒットを記録します。

任侠映画の成功は、それまで不振の続いていた東映を復活させる起爆剤になりました。

一方、任侠映画は時代劇の流れを受け継いだ勧善懲悪的なストーリーが多く、
1972年春の看板スター・藤純子の引退でその勢いには翳りが見えるように。

そうした状況を受け、東映の伝説的な社長・岡田茂はよりリアルな、
実話をベースにした「実録路線」への転換を目指します。

その背景には、1972年の『ゴッド・ファーザー』や、
イタリアの『コーザ・ノストラ』(1973)のようなマフィア映画のヒットもありました。

74年、高倉健さん(左)、岡田茂東映社長(中央)と並ぶ菅原さん
引用元:スポニチ

そうして生まれたのが、日本のヤクザ映画の金字塔である『仁義なき戦い』シリーズです。

1973年の第1作『仁義なき戦い』は、
それまである種美化されていた任侠映画の虚飾を剝がし、
互いの利益のために殺し合うリアルでパワフルな姿を映し出しました。

そこには監督・深作欣二の戦後社会に対する問題意識も反映されており、
それゆえに単なるヒット作にとどまらない、時代精神を捉えた名作となったのです。

『孤狼の血』には、そんな『仁義なき戦い』シリーズへのリスペクトが随所に込められています。

互いの利益のために殺しも厭わないその暴力性を、
現代の映画で逃げることなく正面から描き出す姿勢はやはり東映ならではだと感じます。

実は市民を守るために奮闘していた大上が無惨な殺され方をするという展開も、
五十子組と県警の癒着という社会の汚れた部分を描いた、苦みのあるものになっています。

物語の展開を説明するナレーションの使い方や、
大上が尾谷組組長のもとに車で向かうところのカメラワークなど、
パロディ的な演出も見ることができますね。

東映がそうした『仁義なき戦い』の伝統を受け継ぐような作品を、
このコンプライアンス重視の時代に改めて作り直したというところに、
日本映画の今後の可能性の広がりを感じられます。

『孤狼の血』が『仁義なき戦い』と肩を並べる水準にある作品だとはいえませんが、
東映ヤクザ映画の魅力の一端を伝えられる作品であることは間違いありません。

こうした熱さとバイオレンスを持った作品が多く生み出されていき、
韓国ノワールならぬ日本ノワールの世界がもっと充実していくことを、
いちヤクザ映画好きとして期待するばかりです。

『孤狼の血』を見た後は

『仁義なき戦い』シリーズ

深作欣二監督による伝説的なヤクザ映画として、
『孤狼の血』が楽しめた人は絶対に観るべき作品です。

戦後という時代をヤクザとして生きた男たちの熱量と、
組織の理論に飲み込まれる人間の悲劇を描き、
人生にとって多くの示唆を与えてくれる作品になっています

この映画を観た後、広島弁で喋らないでいられる人が果たしているのでしょうか?

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『アウトレイジ』シリーズ

北野武監督の「全員悪人」なヤクザ映画シリーズです。

目をそむけたくなるような暴力表現が目白押しなだけでなく、
2010年代にヤクザ映画で興行的な成功を収めたという意味でも意義があります。

日本映画の個性的な「顔」たちを観たい方にはぜひおすすめです。

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『グッドフェローズ』(1990)

マフィア映画で世界的に有名なマーティン・スコセッシ監督による、
いわばハリウッド版「実録」マフィア映画です。

フランシス・コッポラによる『ゴッド・ファーザー』が
マフィアの世界を美的に描いたものだとすれば、
『グッドフェローズ』はNYのマフィアの実態をよりリアルに描いた作品になっています。

ジョー・ペシも怖いけれど、デ・ニーロはもっと怖い、そんな作品ですね。

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『新しき世界』(2013)

こちらはいわば「韓国版ゴッド・ファーザー」。

ヤクザ(マフィア)と警察・スパイ要素を掛け合わせた、
非常に息詰まるような感覚を味わえる作品です。

暴力表現にも躊躇がなく、個人的には韓国ノワールでも屈指の名作だと思っています。

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『アシュラ』(2016)

韓国ノワールの中でも、暴力表現の過激さでは群を抜く作品です。

上下関係を理解させるマウンティングシーンの多さも特徴的で、
とにかく力の論理が場を支配していく圧迫感を味わうことができます。

どうやって撮ったの?というクレイジーなカーチェイスシーンも必見です。

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最後に

今回は、『孤狼の血』の魅力について紹介してきました。

近年の日本映画のなかでも、屈指の熱量を感じることのできる作品として、
映画に刺激を求めている人々にはぜひおすすめします。

ちなみに、今年の8月には続編として『孤狼の血 Level2』が公開予定。

どのようなストーリーが展開されるのか、個人的には非常に楽しみにしています!

このブログでも取り上げていきますので、
今度もの何卒よろしくお願いいたします。