『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を観た。
「今回この記事を書いたのは、掘り出し物が出たんです この半年で一番の作品」
「この映画はあらゆる専門的観点からも― 絶対に満塁ホームランです」
今回はそんな映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)について書いていきます。
※ネタバレを含む感想となります。
あらすじ・キャスト
ますは今作のあらすじです。
ウォール街には、金にまつわる豪快な逸話がいくらでも転がっているが、
なかでも特別スケールのデカい話がある。1980年代から1990年代の10年間に渡り、26歳で証券会社を設立、
年収〈4,900万ドル(約49億円)!〉を稼ぎ出し、栄光の果てに、
36歳で楽園を追放された伝説の男、ジョーダン・ベルフォート。成功、放蕩、破滅─そのすべてにおいて彼は、
Filmarksより引用
いまだ誰も超えられないパワフルな伝説をうちたてた!
そのダイナミックな成功とセンセーショナルな破滅を映画化!
監督はハリウッドを代表する御大、
マーティン・スコセッシ。
主演にレオナルド・ディカプリオ、
そのほか主要キャストにジョナ・ヒル、
マーゴット・ロビー、
マシュー・マコノヒー、
カイル・チャンドラーといったスターたちが名を連ねます。
上映時間は179分とかなり長尺です。
ですが今作は、
上映時間の長さを感じさせない、
酒池肉林の乱痴気騒ぎが延々と繰り広げられるブラックコメディになっています。
ここからは映画を観た感想について書いていきます。
映画感想 ※ネタバレあり
とんでもなく馬鹿でエネルギッシュな、スラップスティックブラックコメディ
この映画はまず、とにかく3時間、
金・ドラッグ・女、の乱痴気騒ぎが
繰り広げられ続けます。
オフィスでも、別荘でも、
社員旅行の飛行機の中でも、
ドラッグでキマったジョーダン・ベルフォートことディカプリオとその仲間たちが、
娼婦と楽しく乱交パーティー三昧。
ディカプリオに『タイタニック』のイメージしかない人が見たら、
あまりの乱れっぷりに衝撃を受けるはずです。
一般社会の倫理など気にも留めずに、
男性的欲望をこれでもかと満たしていくディカプリオの姿は、
確かに豪快で痛快。
とにかくエネルギッシュな映画です。
こんなに眠りもせず、
ドラッグをキメまくり、ヤりまくり、
心臓止まったりしないのかなと凡人的な心配をしながら見てしまいました。
カロリーなんて気にしない、
バターもアイスクリームを揚げて食う、
そんなアメリカ的精神を体現している映画ともいえます。
ですが、そんなクドい映画でありながらも、
3時間の長尺を割と飽きることなく見ることができました。
そこはやはりスコセッシ監督らしいテンポの良さと、
音楽使いのポップさが効いていたように感じます。
全体としてまともな登場人物がおらず、
各々の無計画な欲望のままに破滅へと向かっていく今作は、
ブラックなスラップスティックコメディになっていますので、
笑えるシーンがいくつもありました。
具体的に1つ挙げるとすると、映画後半、
大時化の海を船で進むシーンなどは、
『タイタニック』のオマージュ的でもあり、
ディカプリオの
「俺は潜水のプロだ 誰も死なせない」
というツッコミどころ満載なセリフもあったりして、
かなり笑えるシークエンスでした。
後先考えずに馬鹿をやり切る物語にしか生まれないパワーが、
この作品には間違いなくあります。
ディカプリオの怪演
食傷気味になる欲望まみれの今作ですが、
3時間たっぷり見ることができてしまうのは、やはり主演・ディカプリオの怪演=名演があってこそです。
史上最強の美青年として名をはせた
レオナルド・ディカプリオも、
『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)、
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)など、
自分の中ですっかり酒浸りブチギレ役の印象が強くなっていましたので、
今作もめちゃくちゃハマり役だなあと思いながら見ていました。
主人公のジョーダン・ベルフォートは人間としての倫理観が破綻しているし、
ドラッグをキメて這いつくばりながら車に乗り込むシーンだとか、
とにかくマトモではないシーンばかりです。
その常軌を逸した彼の様を、
ディカプリオほどのルックスと演技力を持った男が演じてしまうと、
なんか見れてしまうというか、
めちゃくちゃかっこよく見えてしまう。
しかも、今作にはディカプリオが自社の社員を相手に演説をぶちかますシーンがあるのですが、これがまためちゃくちゃ良い。
サラリーマンとして目の前の仕事をこなすことばかりに集中していると、
つい忘れてしまう「仕事への情熱」みたいなものを思い出させてくれるような演説なんですね。
もっとも、今作の中では、
そんな情熱をもってクズ株を売りつけていくわけですが。
社会的にはどう考えても悪い奴だけれど、
目の前にいたらどうにも魅力的に見えてしまうであろう人、
どうにも目が離せなくなってしまう人…
そんな人物を演じるディカプリオの怪演熱演が強い引力になって、
3時間という時間をそれほど長く感じさせずに見られてしまいました。
もちろん、ディカプリオだけでなく、
彼の右腕であるドニーを演じる
ジョナ・ヒルの存在感も忘れてはいけませんね。
はっきり言ってずっと気持ち悪いのですが、インパクトは抜群でした。
スコセッシ映画の「成功者の末路」
スコセッシの作品のなかでは、
「男の成功と没落」がしばしば描かれます。
『レイジングブル』『グッドフェローズ』『カジノ』『アイリッシュマン』などが、
成功を渇望する男たちを主人公として、
彼らが上り詰めていき、やがて没落していく姿を描いている作品として上げられます。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』も物語の型としては同様で、
主人公のジョーダン・ベルフォートは、
犯罪すれすれのリスクも厭わずに、
金、女、地位を手に入れていきます。
そして、没落の仕方も先ほど挙げた作品に非常に良く似ていて、
行き過ぎた欲望、ドラッグ、家庭の不和、
身内の裏切りといった要素によって、
最終的には収監されることになりました。
しかし、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の結末は、
ほかの作品の主人公たちの末路とはやや異なっているようです。
今作の最後、ジョーダン・ベルフォートがセールスのセミナーを開いている姿が描かれ、
著名な成功者としての人生を継続していることが示唆されます。
彼はクズ株を売りつけることで巨万の富を築いたわけで、
彼の所業によってお金を失った人々が数多くいるのです。
しかし、
人々はそういったことには目を向けず、
ジョーダン・ベルフォートを成功者として扱ってしまう。
何よりも皮肉なのは、
ベルフォートの本質を見抜くことができず、
彼を成功者として祭り上げてしまうような人々こそ、
ベルフォートが狙いをつけて搾取してきた人々であるということです。
ベルフォートのセミナーに真剣に耳を傾ける聴衆の姿を映す今作のラストシーンは、
こうしたメッセージが伝わってくる非常に示唆的なカットでした。
あるいは、彼らが持つ「人生をよりよくしたい」という普遍的な欲望そのものが、
ベルフォートというモンスターを生んだとも解釈できるかもしれません。
今作が実話をベースにしているがゆえに、
スコセッシのメッセージにも重みを感じられます。
日本でいえばホリエモンもそうですが、
悪行がかえってその人に有利に働くことが現代ではしばしばあります。
炎上商法で知名度を稼ぐ手法はいまでも後を絶ちません。
今作は、
ベルフォートが単に没落するのではなく、
その後の再起の可能性をシニカルに示唆することによって、
現代社会のある種の異常さを描きだした作品になっています。
人生の幸福とは
最後に印象的だったシーンをもう1つ。
それは、ベルフォートを捕まえたFBI捜査官のデナム(カイル・チャンドラー)が、
そのことを伝える新聞を読みながら地下鉄に乗っているシーンです。
ようやくベルフォートを捕まえた満足感でほくそ笑んでいるかと思いきや、
デナムはいつもと変わらない電車内の風景を見つめ、
何か釈然としないような表情を浮かべていました。
必死になってベルフォートを捕まえたところで、自分自身の生活は何も変わらないことに気づいてしまったかのようです。
観客はその後、収監された先の刑務所で、
優雅にテニスをして遊ぶベルフォートの姿を見せられます。
欲望のままに生き、悪行を成しても楽しく人生を送るベルフォートと、
正義のために仕事をしながら、人生の充実感を感じられないデナム。
これも非常に皮肉な対比となっていて、
人生における幸福とは何かを考えさせられます。
個人的には、ベルフォートのような生き方は、ある意味で特別な才能を必要とするもののように思います。
ハンターハンターのサトツさんがいうところの、
「我々がブレーキをかけるところでためらいなくアクセルをふみこめるような」
というやつです。
私を含め中途半端にブレーキを持ち合わせてしまっているタイプの人間にとっては、
ベルフォートを目指すのはなかなかの修羅の道のようです。
最後に
スコセッシ監督作品のなかでもなかなかパワフルで、
最初の方にしか出てこないのに強烈なインパクトを残すマシュー・マコノヒーとか、
「このペンを俺に売ってみろ」とか、とにかく印象的なシーンが多い作品です。
下ネタが大丈夫な人であれば十分おすすめできる作品でした。
当初は株の勉強になるかと思って今作に手を出してみましたが、
セールスの極意とか、人生の楽しみ方とか、
そんな勉強になるタイプの作品でした。
次回は同じくスコセッシ監督とディカプリオのコンビが楽しめる、
『ギャング・オブ・ニューヨーク』について書いていきます!
マーティン・スコセッシ監督おすすめ作品3選!
『レイジング・ブル』(1980)
「ブロンクスの怒れる牡牛(レイジング・ブル)」と呼ばれた
実在のプロボクシング選手ジェイク・ラモッタ。幼少の頃からスラム街でストリート・ファイトに明け暮れていた彼が
ある日ボクシングと出会う。20歳になる年にプロデビューし、
着々と実力を付けていったジェイクは2年後、
最強ボクサーと呼ばれるシュガー・レイ・ロビンソンを相手に戦うのだった。戦い続けるジェイクが目指すところは一体どこなのか。
Filmarksより
『グッドフェローズ』(1990)
大物ギャングポーリーのアジトで育ったヘンリーは、
物心ついた頃からマフィアに憧れていた。やがて念願の”グッドフェローズ”の仲間となり、犯罪を重ねていく。
Filmarksより
実話を基にしたマフィアたちの友情と裏切りの物語。
『アイリッシュマン』(2019)
全米トラック運転組合のリーダー:ジミー・ホッファの失踪、殺人に関与した容疑をかけられた実在の凄腕ヒットマン:フランク“The Irishman”・シーランの半生を描いた物語。
全米トラック運転手組合「チームスター」のリーダー、
ジミー・ホッファの不審な失踪と殺人事件。その容疑は、彼の右腕で友人の凄腕のヒットマンであり、
伝説的な裏社会のボス:ラッセル・ブファリーノに仕えていたシーランにかけられる。第2次世界大戦後の混沌としたアメリカ裏社会で、
Filmarksより
ある殺し屋が見た無法者たちの壮絶な生き様が描かれる。
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