韓国映画の世界を楽しみたい人向け!ナ・ホンジン作品をおすすめしたい3つの理由

こんにちは、映画ブログ『初心者のための映画入門ブログ』を運営しているとおり人といいます。

今回は韓国映画の初心者の私が、

ナ・ホンジン監督作品にハマった理由を考えてみたいと思います。

ナ・ホンジン監督は韓国映画界で注目を集めている監督の1人です。

彼は1974年生まれで、2008年に『チェイサー』で長編デビューを果たし、

『哀しき獣』(2010)『哭声/コクソン』(2016)でその評価を確かなものにしていきました。

作品については後ほど個別に紹介していきます。

韓国映画初心者が受けた衝撃

そもそも私が韓国映画に興味をもったきっかけは、

2020年アカデミー作品賞の、ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』でした。

巧みなストーリー構成、視覚的演出、込められた社会的メッセージ。

エンターテイメントと社会性を兼ね備えたその完成度の高さに、

韓国映画って面白い!と気づいた私は、

他にも面白い韓国映画はないか?とあれこれ検索を進めました。

そうして目に止まったのが『哭声/コクソン』(2016)です。

『哭声/コクソン』を観終えた私は、これがナ・ホンジン監督作品であることを知り、

『チェイサー』、『哀しき獣』と次々と彼の作品に手を伸ばしていきました。

そして、3作品のどれもが面白い。

ぐいぐいと引き込まれるストーリー展開、

まったくといっていいほど躊躇のない暴力表現、

観れば観るほど深まっていく謎・・・

今回はナ・ホンジン監督作品の持つそんな魅力について語りたいと思います。

ということで、まずは個人的なおすすめ順と合わせて、
全3作品の紹介をしていきます。

第1位 『哭声/コクソン』(2016)

何の変哲もない田舎の村、谷城(コクソン)。

その村の中で、村人が家族を惨殺する事件が立て続けて発生する。

容疑者にいずれも動機はなく、幻覚性の植物を摂取して錯乱したための犯行と発表されたが、謎の発疹を発症するなど説明しきれない不可解な点が多く残っていたことから、いつしか、村人たちの中では山中で暮らす謎の日本人が関わっているのではないかとささやかれはじめる。

捜査にあたる警察官のジョングは、オカルトじみたその意見を当初まともに取り合わなかったが、実際にその目で数々の異常事態を目撃したことにより、徐々に疑念を抱き、一度は断念した男の家への訪問を決める。そして通訳らとともに男の家を訪れたジョングは、得体の知れない祭壇や事件の現場を写した写真などとともに、娘ヒョジンの靴を見つけ、疑いを決定的にする。

Wikipedia より引用

ナ・ホンジン監督作品の中でも、前の2作とはやや雰囲気の異なる、
韓国映画のなかでも「怪作」と呼ばれる作品です。

主人公のジョングは村で起きた異常事態を調べていく中で、
娘のヒョジンを守るためにひたすら奔走していきます。

そこにファン・ジョンミンが演じる怪しげな祈祷師イルグァンや、
國村準が演じる謎の日本人が登場し、謎は一層深まるばかり。

キリスト教的モチーフがちりばめられた、
宗教ミステリー・ホラー作品としてぜひ観てほしい1作です。

第2位 『哀しき獣』(2010)

中国、ロシア、北朝鮮に国境を接する延辺朝鮮族自治州の中国側に住むグナム(ハ・ジョンウ)は、タクシー運転手をする傍ら、借金返済のために給料を賭け麻雀につぎ込む堕落した生活を送っていた。さらに、韓国に出稼ぎに行った妻からの送金も連絡もない。窮地に瀕したグナムは犬商人で地下社会のボス、ミョン(キム・ユンソク)に持ちかけられた請負殺人の依頼を承諾し、韓国へ向かう。

Wikipedia より引用

今作はとにかく激しい暴力表現が特徴的。

圧倒的なタフネスを誇る主人公グナムの目線から、
スピード感ある展開が怒涛のように繰り広げられます。

この作品ほどパワーに溢れた作品というのは、なかなか類を見ないと思います。

今作で主要な登場人物を演じているハ・ジョンウとキム・ユンソクは、
前作『チェイサー』では全く違う役柄を演じており、
そのギャップにも驚かされます。

第3位 『チェイサー』 (2008)

元刑事のオム・ジュンホ(キム・ユンソク)が経営するデリバリーヘルスで、ヘルス嬢が次々と失踪するという事件が起きる。ジュンホは彼女たちに渡した高額な手付金を取り戻すため捜索を開始する。 やがて、出勤したキム・ミジン(ソ・ヨンヒ)の客の電話番号が、それまでに失踪した嬢たちが最後に仕事をした相手と一致していることが発覚。ジュンホは単身、男の自宅へ向かっているというミジンのもとへ急ぐ。

Wikipedia より

ナ・ホンジン監督の長編デビュー作は、韓国ノワールのお手本ともいうべき作品です。

不条理極まる殺人鬼のヨンミンと、彼の凶行からミジンという女性を救おうとするジュンホ。

それぞれの思惑が交錯するなか、ジュンホはある結末へと向かっていきます。

理由①:心拍数が2倍に上がる、緊迫と裏切りの展開

ナ・ホンジン監督作品の魅力の1つ目は、
目が離せなくなってしまうサスペンスに満ちたストーリー展開です。

例えば、第1作目となる『チェイサー』では、

ヘルス嬢であるミジンを一刻も早く救わなくてはならない緊迫した状況。

観客はミジンが重傷を負いながらもまだ生きていることを見せられているので、

ジュンホたちのいい加減な捜査の行方が気になって仕方がない。

第2作目『哀しき獣』では、主人公のグナムが暗殺を決行しようとした夜に、
ストーリーは想像だにしない方向へと怒涛の勢いで転がっていきます。

ありがちな例えですが、まさにジェットコースターが一気にかけ降りていくあの感じです。

いったい何が起きているのか分からないグナム自身の状況を、

観客も同じ立場で経験していく面白さがありました。

『哀しき獣』の主人公キム・グナム

さらに、『チェイサー』『哀しき獣』ではいわば
「命がけの追いかけっこ」が繰り広げられていたのに対し、

第3作目となる『哭声/コクソン』では宗教ミステリーとしての味付けが加えられています。

村を襲った殺人事件の謎に迫っていくにつれ、
作品はジャンルの垣根を横断しながら一層深い謎に包まれていく。

何が真実で何が嘘なのかも分からないまま、
観客はラストシーンまで一気に運ばれてしまうのです。

というように、
「この先は一体どうなってしまうのか?」という観客の興味をかきたてるストーリーが、
ナ・ホンジン監督作品では展開されていきます。

しかもそこには観客の予想を超える「裏切り」が仕掛けられている。

そんな作品が持つ強烈な引力に、私は否応なく引き込まれていったのです。

そして、作品の引力、サスペンスとしての緊迫感を高める要素がもう1つ。

それは、躊躇いのない刺激的な暴力表現です。

理由②:見ていられないのに魅入ってしまう暴力表現

韓国映画といえば、生々しい暴力表現がその特徴として挙げられます。

ナ・ホンジン監督の作品は、その中でも暴力表現が際立っていることでも印象的です。

例を挙げるときりがありませんが、

例えば『チェイサー』で殺人鬼ヨンミンが工具のノミをミジンの頭を打ち付けようとするシーン。

両手足を縛られながらも必死に逃げるミジンとそれを追うヨンミンの姿は、
観客が思わず目をそむけたくなるえげつなさに満ちています。

一方で、目をそむけたくなるというよりは、
ド派手で魅入ってしまうような暴力表現があるのが『哀しき獣』。

現代を舞台にした韓国ノワールであるにもかかわらず、ほぼ拳銃が出てこない。

ナイフや手斧といった刃物でゴリゴリと切り結ぶのがとにかくすごい。

その中でも、ミョン社長の圧倒的な暴力表現はひときわ異彩を放っているといえます。

牛骨を手に、数十人を相手にしながら、いくら傷を負っても動じない生命力。

もっと見たいとさえ思ってしまう、暴力の魅力を体現しているようなキャラクターです。

『哭声/コクソン』では暴力のトーンはやや抑えめではありますが、

その分、ホラー的な不気味さ・奇怪さが強調されて、生々しさが感じられるようになっています。

これらの暴力表現が躊躇なく取り入れられることで、
主人公たちが陥りかねない事態の恐怖は一層引き立てられていき、
ストーリー上のサスペンスが持つ緊張感がますます増幅していくのです。

『哭声/コクソン』より 謎の日本人と対峙する主人公ジョング

全体に陰鬱な雰囲気が漂う世界と、そこで繰り広げられる果てしない暴力。
万人に好まれるものではないかもしれませんが、私は彼独自の世界観に惹きつけられました。

一方で、ナ・ホンジン監督は緊張感あるストーリー展開と刺激的な暴力表現だけで
観客を強引に引っ張っていくだけではありません。

観客が主人公たちに感情移入できる要素もしっかり織り交ぜられています。

理由③:家族を守るための戦い

観客が主人公たちに感情移入できる理由は、
彼らが幼い家族(もしくはそれに近い存在)を救うために奔走しているからです。

『チェイサー』では、主人公のジュンホは行方不明となったミジンの一人娘ウンジに出会います。

もともと金にしか興味がなかったはずのジュンホは、
ウンジの母を救うという目的のため、身を粉にして街中を文字通り走り回ります。

そこには自分が体調の悪いミジンを無理やり出勤させたという後悔の念もあるのですが、

ミジンを救い、ウンジを守らなくてはという気持ちが彼を突き動かすのです。

『チェイサー』より 殺人鬼ヨンミンを追うジュンホ

『哀しき獣』では、主人公キム・グナムが韓国での殺人を請け負うのは、
母の元に預けている幼い娘と一緒に暮らせる生活を取り戻すため。

『哭声/コクソン』ではもっとストレートに、
警察感のジョングが得体の知れない脅威から娘のヒョジンを守ろうとする物語が展開されます。

家族を守るために常軌を逸した脅威や困難に挑む人間を主人公としているからこそ、
この人物たちが迎える結末を知りたくなってしまう。

また、そうした人物たちの悲劇が観客に忘れがたい苦い後味を残していく。

現代はそれまであった伝統的な「家族」という関係が変化を強いられている時代でもあり、
家族を守るための戦いを描いていることは、
ナ・ホンジン監督作品に通底するテーマとして非常に印象的です。

さいごに

ここまで、韓国映画初心者の私がナ・ホンジン監督作品にハマった理由を考えてきました。

緊迫感のあるストーリー展開、刺激的な暴力表現、通底する家族というテーマ。

そのどれもがハイレベルに表現され、韓国映画のレベルの高さを実感するものでした。

映画という1つのきっかけから知らなかった世界が広がっていくのは、
非常に豊かな体験ではないでしょうか。

ここまでの内容で興味を持たれた方には、
ぜひ彼の作品世界に手を伸ばしていただければと思います。

私はその後韓国映画をいろいろと見てきましたが、
ナ・ホンジン監督同様に高い手腕を持った監督が韓国映画界に数多くいることを知りました。

パク・チャヌクやキム・ギドク、パク・フンジョンなどなど、

今後の鑑賞作品リストには、まだまだ観なくてはいけない監督の作品があふれています。

皆さんもぜひ果てしなく広がる韓国映画沼にハマってみてください。

今後も『初心者のための映画入門ブログ』では韓国映画について随時取り上げていきます。

どうぞよろしくお願いします。