『劇場版 呪術廻戦0』を観てきました。
2022年最初の映画は、『劇場版 呪術廻戦0』になりました。
『呪術廻戦』はアニメ版のみ視聴していましたが、
原作漫画は未読の状態で鑑賞です。
今回は映画『劇場版 呪術廻戦0』の感想と、
それにかこつけて伊藤潤二先生のホラー漫画『うずまき』が
めちゃくちゃ面白いという話を書いていきます。
※映画のネタバレを含みます。
乙骨シンジとはいうものの
さて、この映画を観た誰もがそう感じたのではないでしょうか?
今作の主人公は、
特級過呪怨霊と呼ばれる最強の「呪い」祈本里香に取り付かれた
高校生・乙骨憂太です。
彼の声を担当しているのは、
エヴァンゲリオンシリーズで主人公・碇シンジを演じている緒方恵美さん。
中性的な黒髪の男子ということで、
乙骨と碇シンジは声だけでなく見た目もかなり近いキャラクターです。
自分の中に眠っていた力が人を傷つけることを知り、
とにかく人を避けて死を望むという映画序盤の乙骨の状況も、
エヴァンゲリオンに乗ることを強いられた碇シンジの状況とよく似ています。
このほかにも、印象的な「目」の映し方であったり、
いろいろな場面でのセリフであったり、あまりに似ている点が多く、
「乙骨シンジ」と呼ばれてしまうのもうなずけるキャラクターになっていました。
もちろんこれは偶然の一致ではなく、
制作陣も大いに意識していたところではないかと思います。
そのオマージュっぷりを楽しめるかどうか、
映画としての好き嫌いが分かれるところだと感じました。
私個人はエヴァンゲリオンシリーズも好きなのでいろいろな意味で楽しかったです。
一方で、もちろんですがこの2人は全く同じキャラクターではありません。
最初は絶望していた乙骨ですが、
映画序盤で里香の呪いを解くという決意を固めます。
そこから彼の行動の芯がブレることはなく、
同級生の真希たちと地道な修行を重ねて成長していきました。
25年もの間自分がエヴァに乗る意味を探し続けたシンジ君とはかなり違いましたね。
中学生と高校生の差もあるとは思いますが、
そこに「愛」という確固たる土台があったかどうかという大きな差がありました。
愛される経験を得られずに育ったシンジ君とは異なり、
乙骨はすでに「愛」を知っている男です。
最後は自身の愛に殉じようとするところにまで至ります。
だからこその、あの純愛ビームです。
終盤にかけて強さと頼もしさを増していく乙骨を見ていくうちに、
『呪術廻戦』の主人公ってもう乙骨でいいじゃん…となりました。
シンジ君すぎるところもありましたが、
映画ではミゲルと乙骨、さらに五条が登場する意味深なシーンもあり、
今後も乙骨というキャラクターの活躍が楽しみです。
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百鬼夜行はテンションが上がる
作中、乙骨たちと敵対する呪詛師のリーダーである夏油は、
新宿と京都にそれぞれ1000体の呪霊を放つ「百鬼夜行」という攻撃を仕掛けます。
五条悟をはじめとする呪術師たちが大量の敵を迎え撃つシーンでは、
五条vsミゲルに加えて、七海や冥冥(めいめい)、
京都校の東堂や加茂といったキャラクターたちそれぞれに見せ場があり、
映画館ならではの迫力ある戦闘が繰り広げられます。
今作は本編の主人公である虎杖らが登場する前の話のため、
アニメ版のみ視聴した身としては、
見知ったキャラクターたちの躍動にはテンションが上がりました。
また、街中で「見える」人たちが大小さまざまな敵を戦うというところで、
『BLEACH』のホロウ(虚)が連想されました。
ホロウのスタイリッシュなデザインも好きですが、
人間の呪いが集まってできる呪霊たちの、
肉の存在を感じさせる生々しい感じも好きでした。
今作における「百鬼夜行」は、まさに漫画をアニメ映画化する面白さが味わえるシーンです。
「愛」=「呪い」?
『呪術廻戦』はその名のとおり「呪い」が作品のテーマとなっています。
恨み、憎しみ、嫉妬といった負の感情が集まって、
「呪霊」という異形の存在が生まれ、それが人間に害を成す。
呪術師たちはそんな呪霊から人々を助けるため、日々戦いを繰り広げています。
面白いと感じるのは、「呪い」になりうるのは負の感情だけではないというところです。
本編の主人公・虎杖の祖父が死の前に語った、
「オマエは強いから人を助けろ」という言葉は、
祖父としての愛情から、孫へより良い生き方を諭したものだったでしょう。
しかし、この言葉は虎杖にとって生きる上での行動指針となる一方で、
彼の生き方を縛りつけるものにもなっています。
また、今回の映画における特級呪霊・里香が生み出されたのも、
乙骨が彼女を愛していたがゆえに、
彼女の突然の死を受け入れられなかったことが原因でした。
現実の社会でも、
男は・女はこうあるべきであるだとか、良い大学にいくべきだとか、
ありとあらゆるところに人間を縛り付ける呪いが存在しています。
こうした呪いの中には、かならずしも誰かを苦しめるためではなく、
むしろ他人の幸せを思って生まれてきたものも少なくないはずです。
しかし、結果的にはそうした価値観が人間を押さえつけ、
苦しめるものとなっている。
そう考えると、作中での「愛」=「呪い」という五条の発言にもうなずけます。
一方で、呪術師はそうした思いの強さを力に変えて戦う存在でもあり、
今回の映画における乙骨も夏油を上回る強さを発揮しています。
現代はありとあらゆる考え方、思想、時には呪いのような言葉でも、
否応なしに目に入ってしまう時代です。
「呪い」と戦う呪術師たちの物語を通じて、
この時代をどう生きるかという問いへの答えが提示されるのか、
今後の展開を楽しみにしています。
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伊藤潤二のホラー漫画『うずまき』の魅力
今作の中で夏油が乙骨に向かって放つ大技、
呪霊操術・極ノ番「うずまき」。
夏油と乙骨との戦闘のハイライトとなるド派手な場面でした。
この「うずまき」の元ネタとなっているのは、
ホラー漫画の大家・伊藤潤二先生の『うずまき』(1998-99)です。
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物語のあらすじはこんな感じです。
呪われた土地・黒渦町に住む女子高生・五島桐絵とその恋人・斎藤秀一の周りで起こる禍々しいうずまきにまつわる惨劇、怪奇現象が発生する。人がねじれる、カタツムリに人が変身する。台風が町に吸い寄せられる・・・時間と共に徐々に現実と乖離し、捩れ歪む黒渦町。呪いが収束するその中心にあるものは…。
Wikipediaより
黒渦町という何の変哲もないはずの町で立て続く怪奇現象は、
やがて想像もしえない結末へとつながっていきます。
今回はそんな『うずまき』の魅力をほんの一部ですが紹介していきます。
次から次へと繰り広げられる怪奇現象から目が離せない
物語は主人公の女子高校・五島桐絵の恋人である斎藤秀一の父の話から始まります。
秀一の話によると、秀一の父は会社にも行かず、
自らの書斎を「うずまき」で埋め尽くして一日中眺めているというのです。
しかも、うずまきを見つめる父の目は、
「左右の目がまったく別々に」、
「異様になめらかにぐるぐる回っている」。
さらに、妻にはみそ汁に「鳴門巻」が入っていないと怒鳴り、
風呂も必ずかき回して渦を作ってから入るといった奇行を繰り返すようになります。
それから数日後、秀一の父が急死。
死因は階段から落ちたことだと伝えられていましたが、
桐絵は秀一からその死の真相を聞かされます。
秀一の父は自らの身体を「うずまき」にするために、
自ら大きな樽の中に入り込んで、
全身の骨が砕けて死んだというのです。
『呪術廻戦』でオマージュしていたのはまさにこの場面ですが、
これはなんとまだ物語の第一話。
ここから「うずまき」やうずまきの持つ人を惹きつける力を題材として、
様々なエピソードが繰り広げられていきます。
耳の蝸牛、サスペンション、カタツムリ、台風といった「うずまき」状をしたものは当然のこと、
人間関係、欲望、果ては時間や空間までもが「うずまき」の力に飲み込まれていく。
次から次へと桐絵たちに襲い掛かる怪異の数々に、
きっとページをめくる手が止まらなくなるはずです。
そして、その怪異が行き着く先は…。
ぜひ実際に読んで確かめてみてください。
ちなみに個人的に好きな話は、「ヒトマイマイ」「黒い灯台」あたりです。
「うずまき」の魅力を体現した画の魅力
ページをめくる手を止まらせない展開力を支えているのが、
伊藤潤二先生の圧倒的な画力です。
自らがうずまきになって飲み込まれていく美少女、
飛び跳ねる腐乱死体、カタツムリと化した人間、びっしりと生えた胎盤…
桐絵たちに襲い掛かる数々の怪異の衝撃的なビジュアルに、
ページをめくるたびに驚かされてしまいます。
一方で、リアリティーもありながら、作品にどこかコミカルな部分もあるのが、
より一層作品の面白さを増しています。
冒頭の秀一の父のシーンもそうですが、
ホラーとギャグは紙一重という言葉がよくわかるような、
恐ろしいのに笑えてしまう場面が作中にはしばしばあります。
また、主人公の桐絵もそうですが、
伊藤潤二先生の描く女性にはどことなく色気が漂っていて非常に魅力的です。
物語の展開力、見るものを惹きつける画力、
まさに「うずまき」のような引力をこの作品は持っているといえるでしょう。
最後に
伊藤潤二先生の作品は『呪術廻戦』のほかにも数多くの作品でオマージュされており、
のちの作家に多くの影響を与えています。
『呪術廻戦』のうずまきを巡っては、
パクリかオマージュかという論争が巻き起こされるなどもしていました。
そのあまりの影響力の強さ、
伊藤潤二先生こそが本当の特級呪霊なのかもしれません。
今回は『劇場版 呪術廻戦0』および伊藤潤二『うずまき』について書いてきました。
今後も『呪術廻戦』の展開を楽しみにしていきたいと思います!
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